第160話 三月九日は感謝の日(月間ベスト作品)
「サン(三)キュー(九)」(Thank you)の語呂合せ。
過去の感謝したいことや人に思いを寄せる日。
妻と夕飯を食べている時のこと。
「あっ、悪いけど、そこのソースを取ってくれる?」
今日のご飯はとんかつでソースを掛けたいと思った俺は、妻にそう頼んだ。ソースが妻の手元に有ったからだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
妻からソースを受け取った俺は自然にお礼を言う。
「本当に、あなたと結婚して良かったわ」
妻は唐突に、笑顔を浮かべてそう言った。
「えっ、どうしたのいきなり?」
急に言われたので、俺は戸惑った。夫婦仲は良いが、突然こんなこと言われるのは初めてだったから。
「大したことじゃなくても、自然にお礼の言葉が出て来るって大切なことだと思うの。比較されるのは気分が良くないかも知れないけど、前の結婚生活ではそれが無かったから凄くストレスを感じててね」
「そうなんだ」
妻はバツイチで、前の旦那とは性格の不一致で別れたと聞いている。
「そんな大袈裟に意識して言ってる訳じゃ無いんだけどね。何かして貰ったら、自然に出て来るだけで」
「それが良いのよ。小さなことでもして貰ったって意識を持っているから、自然に『ありがとう』の言葉が出て来るのよね。やって貰って当たり前じゃないって感じがして、嬉しいのよ」
「そう言って貰えると嬉しいな。子供の頃から習慣にしていて良かったよ」
「それにあなたは、『ごめん』とか『美味しい』もよく言ってくれるよね。それも凄く嬉しいの。料理だって作り甲斐があるわ」
「あっ、でも料理に関しては本当に美味しいからだよ。美奈の作る料理はいつも美味しいから、食べると自然に『美味しい』って言葉が出て来るんだよ」
「それも言わない人は言わないからね。あなたは自然にしていることだと思うけど、それが周りの人を気分良くさせていると思うよ」
「そうか。言葉って大事だね。肯定的な思いを言葉にするだけで、みんなが気持ち良く過ごせるんだな」
俺はとんかつにソースを掛けて、一口食べた。
「美味しい」
「ありがとう」
妻は嬉しそうに笑う。
「笑っている美奈が可愛い。大好きだよ」
「ありがとう。私もあなたが大好き。優しい旦那様と結婚出来て本当に幸せ」
こうして、俺達はお互いの気持ちを素直に言葉にして、幸せに暮らしている。
こんなに価値観の合う女性と出会えて良かった。神様、本当にありがとうございます。
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