第157話 三月六日は弟の日

 今回のお話は、「十一月二十三日はいい兄さんの日」のアンサーストーリーになります。同時に読めば、面白さ倍増です。


 姉妹型、兄弟型の研究で知られる漫画家の畑田国男氏が一九九二(平成四)年に提唱。


 ボクには三つ年上で小学校四年生のお兄ちゃんがいる。お兄ちゃんの名前は優斗ゆうとやさしいと言う意味だって聞いたけど、いつもボクを守ってくれる強い男なんだ。

 お兄ちゃんは、家の中にいるとエラそうにしている。ジュース取ってきてとか、マンガ取ってきてとかよく命令される、ボクは子分みたいなものだ。でもボクはイヤじゃない。お兄ちゃんはいつもあそんでくれるからだ。

 ボクとお兄ちゃんはいつもケンちゃんと一緒にあそぶ。ケンちゃんも四年生で、ボクが生まれた時から、お兄ちゃんのともだちだ。ボクにも優しくて、三人で遊んでいるとすごく楽しい。でも、マンションの公園であそんでいるとあいつがくるからイヤだ。

 あいつの名前は公太こうたくん。公太くんはお兄ちゃんと同じ四年生なんだけど、ルールを守らないし、気に入らないことがあると怒るからすごくこわい。

 ボクたちがなかよくじゅんばんにブランコであそんでいると、あとからきて「次は俺の番~」とか言ってヨコ入りする。ダメだって言っても、おおきな声で怒って、じゅんばんをかわるまでジャマをしてくる。それがイヤなので、公太くんがきたら、お兄ちゃんもケンちゃんも、なにも言わずにほかのモノであそんでいる。ボクはいつも悲しいけど、お兄ちゃんたちがなにも言わないのでしかたなく付いて行っている。

 お兄ちゃんたちはゼッタイに公太くんが怖いからほかのバショに行っているんじゃない。お兄ちゃんは強いし、ホンキを出せば公太くんをケガさせるからケンカしないようにしているんだ。でも、いつかはお兄ちゃんがホンキを出して、公太くんをこらしめてくれるとボクは思っている。



 今日もケンちゃんがボクたちの家までお兄ちゃんをさそいにきてくれた。お兄ちゃんはボクをおいて外に出ようとしたので、「ボクも行く!」ってたのんだ。おかあさんも「一緒に遊んであげて」って言ってくれたので、お兄ちゃんはボクも連れて行ってくれた。

 最初は滑り台で遊んでいたんだけど、ボクはどうしてもブランコに乗りたくなった。


「お兄ちゃん、ボク、ブランコ乗りたい」

「ええっ、ブランコは並ばないと乗れないだろ。めんどくさいよ」

「でも乗りたい。一緒に並んで乗ろうよ」

「滑り台も飽きたし、ブランコに乗ろうか」


 ケンちゃんがそう言ってくれて、お兄ちゃんもブランコに乗ってくれることになった。

 ブランコで女の子二人が遊んでいたので、そのうしろにボクを一番まえにしてならんだ。二人目の女の子が終わりそうになり、次はボクの番だと思っていたら「次は俺の番~」と言いながら、いきなり公太くんがヨコ入りしてきた。


「ジャングルジムにでも行こうか」


 お兄ちゃんは公太くんにはなにも言わず、ケンちゃんにそう言った。


「剛士、行くぞ」

「ええっ! つぎはボクの番なのにー!」


 もうすぐボクが乗れるはずだったのに、今離れるのはイヤだった。


「次は俺の番だからね」


 女の子がブランコから降りたので、公太くんがボクを押しのけ次に乗ろうとする。


「お兄ちゃーん!」


 ボクは悲しくなって、お兄ちゃんの手をつかんで大きな声で泣きさけんだ。

 お兄ちゃんはボクが大きな声で泣いても、悲しそうな顔をしてなにも言わない。

 もしかしたら、お兄ちゃんも公太くんがこわいの? ボクが泣いても助けてくれないの? ちがうよね? お兄ちゃんはホントはつよいから、ボクを助けてくれるよね?

 お兄ちゃんは今にも泣きそうだった。でもボクみたいに大きな声で泣きだしたりせず、ずっとがまんしている。


「次は剛士の番だよ!」


 お兄ちゃんは急に目を大きく開き、大声で叫びながら公太くんの服をつかんだ。


「俺が乗るんだー!」


 公太くんも大声を上げてあばれ出し、お兄ちゃんの手を振りほどこうとする。


「剛士はちゃんと並んでたんだ! 乗りたいなら公太も並べよ!」


 お兄ちゃんが公太くんに叫んでいる。お兄ちゃんはボクを助けてくれたんだ。やっぱりお兄ちゃんは強いんだ!


「嫌だ! 次は俺が乗るんだ!」


 お兄ちゃんと公太くんは泣きながら大声でどなり合い、どちらもブランコをつかんで離さない。ボクはお兄ちゃんを一生けんめい、心の中でおうえんしていた。


「喧嘩したら駄目よ」


 そのうちに、公園に居た他の子のお母さんがなん人かやって来て、お兄ちゃんと公太くんを引き離してくれた。公太くんと離れた後も、お兄ちゃんは「公太が悪いんだ」と泣きながら言っていた。ボクとケンちゃんはお兄ちゃんの背中をさすりながら家に帰った。


「どうしたの? 大丈夫?」

「お兄ちゃんが……お兄ちゃんがー!」


 家に帰ったボクたちを見て、おかあさんがおどろく。おかあさんを見て安心したら、またなんだか涙が出てきて、ボクは大きな声で泣いてしまった。


「お兄ちゃん、ありがとう」


 しばらくして二人とも泣きやんだあと、ボクはお兄ちゃんの手をにぎり、にっこり笑ってお礼を言った。


「うん」


 お兄ちゃんも笑顔になって、ボクの頭をなでてくれた。

 けっきょく、ボクはブランコに乗れなかったけど、お兄ちゃんが強い男だと分かって嬉しかった。ボクもお兄ちゃんみたいに、弱い人を助けられる強い男になりたいと思った。

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