第150話 二月二十七日は冬の恋人の日
※この話だけでも楽しめますが、シリーズ回になりますので、「二月十四日はバレンタインデー」の続きの話となります。
二月十四日のバレンタインデーと三月十四日のホワイトデーの中間の日で、恋人同士の絆を深める日。「きづ(二)な(七)」の語呂合せでもある。
バレンタインデーから二週間近く経ったが、俺は霧島凛子から貰ったチョコを大事に机の上に飾っている。食べてしまいたい気持ちもあるのだが、もったいなくて毎日眺めてはニヤニヤしているのだ。
「康ちゃん、いつまでそうやって眺めてるつもりだよ。もう二週間ぐらいずっとだよ」
俺がいつものように部屋でチョコを眺めていると、同じ部屋の弟の俊哉が呆れたようにそう言ってくる。
「いいだろ、余計なお世話だよ」
「チョコくれた女の子とは上手くやってんの?」
何だかんだ言っても、俊哉は俺が初めてチョコを貰ったので、気になっているようだ。
「いや、あれからあんまり話もしてない。元々良く話をしていた訳じゃないし、チョコ貰ったからって、いきなり馴れ馴れしく話し掛けるのも何だかなって」
「どうしてよ。チョコくれたってことは向こうが康ちゃんのことを好きなんだろ? 康ちゃんも毎日チョコを眺めているぐらいだから好きなんじゃないの?」
「いや、そうなんだけどさ……」
確かに俺は霧島のことを好きになっている。でも霧島からは、深い意味は無く友達になりたいだけって言われたからなあ。
「このチョコをくれた時に、告白じゃないって言われたんだよ」
「でも嫌いな人にチョコは渡さないでしょ? デートに誘って逆に告白すれば良いのに」
「うーん……」
確かに俊哉の言う通りかも知れんけどなあ……。
「もし断られたらショックだろ」
俺がそう言うと、俊哉は呆れたようにため息を吐く。こういった恋愛関係のことではどちらが兄貴か分からないくらい、高校生の俺より中学生の俊哉の方が進んでいる。
「康ちゃんは重く考えすぎなんだよ」
「どう言うことだよ」
「中学や高校で付き合ったからって、将来結婚まで行く可能性は殆ど無いと思うよ。だから、練習だと思って失敗しても良いんだよ。どうせまたその先に結婚するような相手が見つかるんだから」
「ええっ! それならお前は、今付き合ってる彼女とは結婚したいとか考えてないのか?」
「結婚って……」
俊哉は少し馬鹿にしたように笑う。
「何が可笑しいんだよ」
「だって俺はまだ十四歳なんだよ。正直、結婚なんて考えて無いよ」
「でも彼女が好きなんだろ?」
「そりゃあ、好きだよ。彼女から将来結婚したいねって言われたら、俺もって応えるよ。でも心のどこかで、いつかは別れるんだろうなって気持ちはあるよ。だから今は経験を積んでいるんだって、思い切ったことも出来るんだ」
思い切ったことって何だろうか? 聞いてみたい気持ちもあるが、兄としてショックを受けそうだから、聞くのはやめておこう。
「だから、康ちゃんも練習だと思って、失敗を恐れずに行動すれば良いのに」
俊哉の言葉に、俺は何も言い返せなかった。
確かに向こうから友達になりたいって言われたのに、何も行動を起こさないなんて馬鹿げている。三年になったらクラスも別になるかも知れないし、そうなればもっと親しくなるのは難しくなるだろう。
「うん、そうだな。今は学年末テスト前だから、それが終わったらデートに誘うよ」
「だったら、今から約束したら。また間が空くと決心も鈍るよ」
「ええっ……」
どうしてこいつはこんなにスパルタなんだよ。小学生の頃、厳しく勉強を教えてたのを恨んでいるのか?
「さあ、今すぐラインする」
俊哉は鬼教官のように、指示してくる。俺は逆らうことなく、スマホを取り出し、メッセージを送った。
(こんばんは!
学年末の勉強頑張ってる?)
俺がスタンプとメッセージを送ると、すぐに既読が付いた。
(こんばんは!
今、数学の勉強してるよ。伊藤君も頑張ってる?)
俺はチョコを眺めていたとは言えず、俺も勉強中と返した。
(テストが終わったら、どこか遊びに行かない? 予定が合えばで良いけど)
(うん、良いね。行きたい。どこに行くの?)
デートの場所までは考えて無かったな。どこに行けば喜んで貰えるんだろうか?
「水族館が良いよ。凄く楽しかったから」
「えっ!」
横から俊哉が口を挟んでくる。ずっと覗いてやがったんだ。
(水族館とかどう?)
俊哉に文句を言いたかったが、実際有難かったので使わせて貰った。
(私も行きたかったんだ。勉強のモチベーションが上がったよ!)
コメントの後に、ありがとうの可愛いスタンプを送って来てくれた。
(じゃあ、お互い勉強頑張ろう!)
このコメントの後に、俺も頑張ろうのスタンプを送って、ラインを終了させた。
「よっしゃー!」
俺は嬉しくて拳を握りしめた。
「ね、案外上手く行くでしょ」
「あっ、ありがとう……」
俺は複雑な心境で俊哉にお礼を言った。兄としての威厳を保ちたいが、恋愛関係では素直に、俊哉のアドバイスに従う方が良いと思った。
でも、俊哉はああ言ったけど、俺は霧島との関係を練習だとは思いたくなかった。もっと仲良くなって恋人同士になり、この先ずっと付き合って行きたいと思っている。そんな未来を想像するだけで、凄く楽しいからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます