第148話 二月二十五日は親に感謝の気持ちを伝える日

 日頃はなかなか口に出せない、親への感謝の気持ちを伝える切っ掛けにする日。

 日付は二が親と子を、二十五はニコニコを表し、親子で笑顔を表現している。



「二人とも喜んでくれるかな……」


 俺が部屋に呼びに行くと、妹の優佳ゆうかが緊張した表情で呟く。


「大丈夫、きっと喜んでくれるから」


 優佳の部屋に隠していたプレゼントを持って、俺達は一階のリビングに向かう。

 リビングでは父さんと母さんがテレビを観ていた。


「あの、二人に話があるんだけど」

「何だよ、改まって」


 俺が緊張で強ばった表情をしていたのか、二人は少し驚いた顔をする。

 俺達は揃って二人の前に座った。


「今日まで俺達(私達)を育ててくれてありがとうございました」


 俺達は声を揃えてそう言うと、二人に向かって頭を下げた。

 俺は今大学生、優佳は高校生だ。何不自由無く育てられたとまでは言えないけど、家族が仲良く幸せに暮らしてきた。俺も優佳も、父さんと母さんには本当に感謝している。


「どうしたのよあなた達……いきなりそんなこと言って……」

「まさか家出しようとしてるんじゃないだろうな?」


 俺達が慣れないことを言った所為か、どうやら二人は誤解してしまったようだ。


「いや、違うよ。今日は親に感謝の気持ちを伝える日なんだよ。だから優佳と相談して……」

「そう、私とお兄ちゃんでお父さんとお母さんに感謝の気持ちを伝えようって、これも買って来たのよ」


 優佳は後ろに隠していたプレゼントを二人に差し出す。


「ええっ……」


 二人は驚きながらも、プレゼントを受け取った。


「これ開けて良いの?」

「もちろん!」


 戸惑う母さんに俺はそう答えた。

 お母さんは綺麗にラッピングされた包装紙を丁寧に開けて中の箱を取り出す。


「わあー」


 箱を開けて、母さんは喜びの声を上げた。


「これペアのマグカップか」


 父さんが箱の中のマグカップを取り出す。プレゼントは黒と赤のペアのマグカップだ。


「二人ともコーヒーをよく飲むでしょ。だからお兄ちゃんと二人でマグカップにしようって選んだの」


 優佳の言葉を聞いて、父さんと母さんは顔を見合わす。


「ありがとう。毎日このカップでコーヒーを飲むわね」


 母さんは笑顔でお礼を言ってくれた。


「二人ともありがとう……」


 涙もろい父さんは目に涙を浮かべている。


「二人には本当に感謝しているよ。もう少ししたら俺も就職するから、もっと親孝行するよ」

「私も、まだ働くまでは少し時間があるけど、家のお手伝いとかで親孝行するよ」

「あなた達はもう……」


 とうとう母さんまで泣き出した。


「本当にありがとう。二人が親孝行したいと言ってくれる気持ちは本当に嬉しい、でもこれだけは聞いてくれ」


 父さんは涙を拭ってそう言った。


「お父さんとお母さんに親孝行してくれるなら、一番して欲しいのは自分を大事にすることだ」

「自分を大事に?」


 俺は意味が分からず聞き返した。


「そうだ。危険なことをして怪我をする。犯罪を犯して捕まる。ギャンブルやお酒にのめり込む。全て身を亡ぼすことになる。そんな自分を粗末にすることは絶対にやめて欲しい。自分を大切にすること。それが一番の親孝行なんだよ」

「恋愛も同じよ。好きだという気持ちはとても大切だけど、相手が自分を大事にしてくれるかどうかはちゃんと見極めてね。自分勝手な人を好きになって、傷付く二人は見たくないから」

「うん、分かったよ。約束する」

「私も。自分を大切にするわ」


 俺達は二人の言葉が嬉しくて素直に返事をした。

 どんなに俺達子供が親を想っても、親はそれ以上に俺達のことを想ってくれる。まだまだ二人には適いそうもない。二人が心から安心できるように、俺達ももっと大人にならなきゃいけないな。

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