第147話 二月二十四日は鉄道ストの日
一八九八(明治三十一)年のこの日、日本初の鉄道ストライキが実施された。
日本鉄道会社の機関士ら四百人がストライキに突入し、上野~青森の列車が運休した。
「トヨタが春闘で満額回答か。昔と違って、もう日本でストなんて考えられないな」
両親と私の三人で朝食中、ラジオから流れるニュースを聞いて父が言った。
我が家は会社員の父と私、専業主婦の母との三人家族。私が少し早いだけで、出勤時間がほぼ同じなので、いつも朝食は三人で食べている。
「昔とって、いつの時代の話よ。私の子供の頃から日本でスト何て聞いたこと無かったけど」
私は今二十五歳。就職した今も自宅に住んでいる。
「父さんの子供の頃はまだストの話があったんだよ。交通機関の労使交渉が長引いてストになれば、学校が休みになるかも知れないってね」
「そうね。私たちが子供の頃は、まだそんな話があったわね」
父の話に母も同意する。
「へえー日本の労働組合も元気な時代があったんだ」
現在の物分かりが良い労働組合のことを考えると、私は意外に思った。
「いや、そうは言っても、だいたい朝には交渉がまとまって、ストにはならなかったけどな。寝る前は明日は休みかもって楽しみにしていて、朝になって裏切られる。結局学校に行かなきゃいけなくなって、悔しい思いをしたよ」
父は昔を懐かしむように、そう言った。
「えっ、ちょっと待って。お父さんって、昔私に『お父さんは学校が大好きで皆勤賞だったんだぞ』って自慢してたよね。あれ、嘘だったの?」
「えっ……」
私の言葉に父は戸惑う。
昔、私が「学校に行くのめんどくさいな」とぼやいた時に父から言われた言葉だ。その言葉を信じて、私も義務教育は皆勤賞で通したんだ。それが嘘だったら、今更ながら腹が立つ。
「あっ、いや、ストは小学生の時の話で、学校が好きになって皆勤賞を取ったのは中学生の話なんだよ」
「小学生の頃に学校嫌いだったのに、中学生になった途端に好きになるものなの? なんか嘘くさいな。どうして学校が好きになったのよ」
私は父の言葉が言い逃れに聞こえたから、理由を追及する。
「いやそれは……」
父は困った顔になる。ますます嘘くさい。
「どうして、学校が好きになったのかな?」
父の隣に座る母が、いたずらっ子のような笑みを浮かべて父の顔を見る。
「ちょ、ちょっと友里ちゃん……」
私は二人の様子でピンときた。父が母を友里ちゃんと呼ぶ時は、恋人同士に戻った証拠だからだ。
「ああ、そうか。運命の人に出会ったんだね……」
私もいたずらっ子の顔をして、父を冷やかす。
「毎朝、通学途中で待ってくれてたのよ。だから学校を休むなんて考えられなかったんじゃないかな」
母は、そう解説してくれた。
父と母の出会いは中学生の頃。入学式の日に、父が母に一目ぼれしたと聞いたことがある。
「ほら早く行かないと遅刻するぞ」
父は照れて話を変えようとする。
「はいはい、二人とも朝からごちそうさまでした」
私は手を合わせて、食べ終わった食器をシンクに持って行った。
中学生の頃からずっとお互いを愛し続けている両親。そんな両親を私は誇りに思う。だって凄く素敵なことだから。私もそんな相手と結婚したいと願っている。
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