第133話 二月十日はふとんの日
全日本寝具寝装品協会が一九九七(平成九)年に制定。
「ふ(二)とん(十)」の語呂合せ。
ジリリリリーと枕元にある目覚まし時計が朝を告げる。俺は布団から片腕だけ出して、目覚まし時計を止めるとまたすぐ布団にくるまる。
十年に一度の寒波が去って少し暖かくなったと思ったのに、今日はまた冷たい雨が降るらしい。場所によっては雨じゃなく雪になる可能性もあるみたいだ。
もう布団から出て会社に行く用意をしなきゃならないのに、この快適な空間から出る勇気は無かった。
温かく全身を包み込んでくれる布団。この中に居れば、全ての災いから守ってくれそうな安心感がある。こんな寒い日にすんなり布団から出られる人が居るのだろうか?
もう、今日は休む。会社を休んでやる。布団さえ有れば何も要らない。ここは布団王国だ。俺は布団王国の王様だ。
「パパーあさだよー!」
寝室のふすまを開けて、布団王国最凶の敵がやって来た。
「陽菜、ごめん、もう少し寝かせて」
「えーママがパパをおこしてきて、っていってたんだよ」
「もう少しだけ……」
敵は執拗に俺を責め立てる。
「もう、しかたがないなあ……」
ああ、来る。敵の最終兵器が……。
「パパ、しゅきしゅきー」
陽菜は笑いながら俺の顔に抱きついてくる。
「もうーパパも陽菜がしゅきしゅきー!」
俺は布団から起き上がり、陽菜を抱き締める。
こんな可愛い攻撃で、降参しない奴はいないだろう。毎朝布団王国は陽菜の可愛さに降参させられる。でも良いんだ。こんな幸せな敗北なら大歓迎だから。
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