第128話 二月五日は笑顔の日
「ニ(二)コ(五)ニコ」の語呂合せ。
私の課に、いつもニコニコ笑顔を絶やさない、押村さんという男性社員がいる。
押村さんは何を言われても、何をされてもニコニコしているので、先輩からも後輩からも舐められている。酷い人は押村さんに面倒な雑用を押し付けたりするのだ。だけど、押村さんはその表情と同じく温和な性格なので、笑顔で気安く引き受けてしまう。それで残業が増えて課長から怒られたりしている。課長も押村さんが他の人の仕事まで引き受けているのを知ってるくせに。
私は事務員ながら、そんな押村さんを黙って見ていられず、仕事を手伝ってしまう。でも根本的な原因をなんとかしなきゃいけないと思った。
「押村さん! 人が良いのもいい加減にしてくださいよ。みんなに雑用や後始末を押し付けられて。あの人たちは陰で笑ってますよ」
どうにも我慢ならなかった私は、残業で二人になった時に、押村さんに怒った。
「いつも手伝わせてごめんね。みんな忙しそうだからさ。僕がやる方が課の為になるかと思って」
押村さんはニコニコしながらそう答える。
「でも、それで課長に怒られるなんて、押村さん損ばかりしてるじゃないですか!」
「いや、損ばかりじゃ無いんだよ。いろいろやってると、課の中の仕事が全て分かるし、自分のスキルも上がってるんだ」
確かに押村さんは課の中で一番仕事が出来る。だからこそ、私は彼が正当に評価されて欲しいんだ。
「もおー! ホントお人好しなんだから」
「神田さんは優しいね。心配してくれてありがとう」
押村さんに笑顔でそう言われると、これ以上言えなくなる。せめて、私がフォローするしかないか。
「どうして押村さんはいつもニコニコしてるんですか? 仕事押し付けられているんですから、たまには怒っても良いと思うんですけど」
私は押村さんに聞いてみた。
「うーん」
押村さんは、珍しく困ったような顔をする。
「僕はお婆ちゃん子だったんだよ」
「はあ……」
いきなり関係の無い話をしだしたので、私は戸惑う。
「そのお婆ちゃんからね『隆司はいつも笑顔で偉いねえ。いつも笑顔の人は、きっと幸せになれる。だから、今のままで笑顔を絶やさないでね』って言われたんだ。だから、僕はこれからも笑顔でいようと思ってるんだよ」
「そうだったんですか……笑う門には福来るってやつですね」
「そう、お婆ちゃんもそれが言いたかったんだよ」
無邪気に笑う押村さんを見ていると、本当にそう思えて来た。
「うん、きっとその通り。幸せになれますよ」
私も笑顔で押村さんんそう言った。
それから数年経った。押村さんはどんどん実績を上げ、課長を抜くほどに出世した。私はそんな押村さんを公私ともに支え続けた。
押村さんはお婆ちゃんが言った通り、幸せになっていると思う。だって子供たちはお父さんが大好きで、いつも彼が帰って来ると飛び掛かるように迎えるぐらいだから。
一つ言い忘れてました。私も彼が大好きです。いつも笑顔を絶やさない彼のお陰で、私まで一緒に幸せになれました。
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