第126話 二月三日は節分

 立春の前日のこと。

 本来は立夏、立秋、立冬の前日も節分となるが、現在は春の節分だけが行われている。

 季節の変わり目には邪気が生じると考えられていたため、それを追い払う意味で豆まきが行われる。



「お母さん、ただいま! 今日は節分だから豆まきするんでしょ?」


 小学二年生の娘、愛理が学校から帰って来るなり、私の居るリビングに飛び込んで来た。


「お帰りなさい。先に、帰って来たら手洗いとうがいでしょ」

「はあーい」


 愛理は不満そうに返事をして洗面所に向かうと、すぐに戻って来た。


「ねえ、豆まきするんでしょ?」

「するわよ。ちゃんと豆も買ってあるから。『鬼は外、福は内』ってね」

「うん、『鬼は外、福は内』! あっ、鬼は外か……」


 楽しそうな顔してた愛理が、急に元気が無くなる。


「どうしたの?」


 私は心配になって、聞いてみた。


「鬼さんを外に追い出したら寒くてかわいそう……」


 愛理は悲しそうにうつむく。


「でも、鬼は悪いことするから、追い出さなきゃ駄目でしょ」

「でも、赤鬼さんみたいな、いい鬼もいるよ!」


 愛理は顔を上げて、私に訴える。

 そうか、少し前に「泣いた赤鬼」を図書館で借りて読んだんだった。愛理の中で、あの号泣したラストシーンのイメージが甦っちゃたのか。


「じゃあさ『鬼は内、福も内』はどう?」

「うーん、それじゃあ、こわい鬼さんも入って来ちゃうな……」


 ええっ、それ言うの?


「じゃあ『優しい鬼は内、怖い鬼は外、福は内』でどう?」

「うん、それが良い!」


 やっと愛理との交渉がまとまった。



「優しい鬼はー内! 怖い鬼は―外! 福はー内!」


 夫が帰って来てから、我が家でも豆まきが始まった。三人とも笑顔で豆まきだ。

 他所から見たら少し変な豆まきかも知れない。でも、この豆まきは愛理が成長している証だ。子育てって本当に楽しい。

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