第121話 一月二十九日はタウン情報誌の日

 タウン情報全国ネットワークが制定。

 一九七三(昭和四十八)年のこの日、日本初の地域情報誌『ながの情報』が発行された。



「ねえ、次の休みに、ここにランチを食べに行ってみない」


 リビングで本を読んでいたら、妻が手に持ったタウン誌を見せて来た。


「良いけど、これってお勧め紹介みたいな書き方してるけど、広告料払って載せてる宣伝記事だよ」


 俺は毎週のように、タウン誌に載ってる店に行きたがる妻に困っている。行くのが面倒なので、何とか諦めて貰えるようにケチを付けた。


「もちろんそれは分かってるよ。でも、何も情報が無い個人店とか入り辛いじゃない。タウン誌で情報を知ったら行きたくなるのよ」

「うん、まあ、それは分かるけどね……」


 俺は煮え切らない返事を返す。


「近場で良い店を見つけたら、この町をもっと好きになれるじゃない。お気に入りの場所がたくさんある町。ここがそうなれば良いなって思うの」


 俺は妻の言葉を聞いて、あることを思い出した。

 この町は、俺と妻のどちらの地元でも無い。転勤でやむなく住むことになった町だ。

 俺と妻は会社内で知り合った。転勤の多い会社で、総合職の俺は覚悟して入社している。だが、妻は一般職で転勤する必要は無かったのだ。

 俺達が付き合って二年目に、俺に転勤の辞令が出てしまった。とても遠距離恋愛できる距離ではない場所にだ。俺は妻に、一緒に付いて来て欲しいとプロポーズした。妻は悩んだけれど、俺との結婚を選び、退職して付いて来てくれたのだ。

 俺も妻も、一人も知り合いが居ない場所で、新婚生活が始まった。俺は仕事をしていて仲間が出来たが、妻は生活の中で積極的に活動しながら自分の居場所を見つけていく。タウン誌で得た情報でいろいろなサークルに行ってみたり、自治会などでご近所の人と交流したり。もしそれが出来ない内向的な人間だったら、引きこもってしまったかも知れない。俺が安心して仕事に打ち込めるのも、妻がこの町に馴染んで明るく生活してくれているからだ。


「でも、あなたもお仕事で疲れているから、しょっちゅう行くのは大変よね」


 妻は少し寂しそうに呟いた。


「いや、そんなこと無いよ。仕事の良い気分転換になってるから。次の休みに、その店にランチを食べに行こう。それに、近場の名所とか載ってないの? あったらそこも行ってみようよ」


 俺がそう言うと、妻の表情がパッと明るくなる。


「ホントに良いの? 嬉しい! 名所も載ってるよ。これ読んで、どこに行くか決めようか」


 妻の笑顔を見ていると、俺まで嬉しくなってきた。

 俺も仕事ばかりしているんじゃ無く、妻を見習い、この町の良い所を見つけてもっと好きになろう。

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