第108話 一月十六日はヒーローの日
広告業務などを手がける株式会社電通が制定。
アニメや映画の世界における「ヒーロー」をさらに多くの人に愛してもらい、その存在を世の中に浸透させるのが目的。
日付は一と一六で「ヒ(一)ー(一)ロー(六)」と読む語呂合わせから。
近未来の世界は、特殊能力を持つ改造人間を戦力化した悪の秘密結社「ワルダ―」が跋扈し、混迷を極めていた。各国は「ワルダ―」を撲滅する為に、様々な対策を取っている。我が国日本でも、対特殊犯罪組織防衛機構が創設されることとなった。
組織の要となるのは正義の超能力者を集めた五人の戦隊だ。チーム名は「サイコレンジャー5(ファイブ)」。メンバーはAIが日本国中の超能力者から選びだした精鋭部隊だ。
メンバーの一人に見た目ごく普通の男、青井大地(あおいだいち)が抜擢された。彼のコードネームは「ブルー」。本作は彼の活躍と成長を描く物語である。
サイコレンジャー創設後、初めてメンバーが招集された。ブルーは招集場所に指定された、都心のビルに向かった。
ビルは六階建て。外装は修繕工事もされていないのか、古びた雑居ビルにしか見えない。
入り口すぐの場所にゲートが設置されていて、事前に送られていたIDカードを通す。ゲートのドアが開き、その中に入ると様子が一変した。大企業のオフィスのような洗練された設備。高速で上昇するエレベーター。ボロい外見は、敵の目を欺くカモフラージュだったようだ。
ブルーは美人の職員から最上階の六階にある、メンバーの作戦室に案内された。六階はサイコレンジャーのメンバー専用のフロアで、作戦室の他にトレーニングルームや畳敷きの武道室、資料室や売店まである。
作戦室に入ると、壁面に大型のディスプレイが埋め込まれていて、中央には楕円形の大テーブルが置かれていた。すでにブルー以外のメンバー四人は揃っていて、テーブルに着いている。ブルーは一つ空いた席に座った。
「みんな揃ったようだな」
高級そうな仕立ての良いスーツを着たイケメン青年がメンバー達を見回す。
「メンバーのみんな、機構の本部に来て頂いてありがとう。初めまして、私がサイコレンジャーリーダーのレッド、二十五歳だ。今日は我がチームの指導者である緑川本部長が不在の為、私が結成式を進行する」
お誕生日席に座る、レッドと名乗るイケメンが挨拶をする。
「今からは私のことをレッドと呼んで欲しい。みんなも家族が居るだろう。個人情報が漏れると力の無い家族が狙われる。だからここでは、それぞれのカラーで呼び合うようにしてくれ」
(なるほど。俺の座っている椅子はブルーだ。レッドは赤い椅子に座っているので、それが与えられたカラーなんだろう。しかしブルーと言えばサブリーダーの色じゃ無いの? マジかよ。クールな二枚目ポジションじゃないか。やっと俺にも活躍の場が与えられるのか)
ブルーはテレビで観た、ヒーロ戦隊のクールキャラに自分の姿を当てはめてほくそ笑む。
「じゃあ、自己紹介として、みんなの超能力を教えてもらおう。
まずは私から。私の能力は超絶スピード。私は光の九十パーセントのスピードで動けるんだ」
「超絶スピード?!」
他のメンバーが同時に驚きの声を上げる。驚いたのも束の間、ふと気づくとレッド以外のメンバーの目の前に、それぞれ一枚ずつの名刺が置かれていた。
「フッフッフ……それは私の名刺なのだよ」
「マルバツ商事の赤松ハヤテ……これ、まさか本名じゃ……」
ピンクが困惑して呟く。
「あっ、いつもの調子で名刺を渡してしまった!」
とレッドが叫んだ瞬間には、みんなの手から名刺が消えていた。
「まあ、私の超能力は分かって貰えたと思うので、左回りに自己紹介をお願いします」
焦りながらも誤魔化すレッドを見て、コイツがリーダーで大丈夫なの? とブルーは不安になってきた。
次はブルーの目の前に座る白いワンピース姿の美女が立ち上がる。
(ええっ! 次はサブリーダーの俺じゃないの? この順番だと最後だよ。これじゃあグリーンポジションじゃないか)
「みなさん初めまして。私はピンク、二十二歳です」
ピンクと名乗った女性は、良家のお嬢様と言った雰囲気。見た目は清楚だが、スタイルが良さそうでワンピースを脱いだら凄そうだ。
「私の超能力は読心術です」
「読心術! 凄いじゃないか。その超能力があれば、敵の考えも見通せるね!」
レッドが興奮して褒め称える。
「そうです。みなさんの心の中も全て……いやああーあの人、いやらしいこと考えてる」
みんなの顔を見回していたピンクがブルーを指差し叫ぶ。
「お前、失礼じゃないか! こんな場所で何を考えてるんだ!」
レッドがブルーを責める。
「いや、違うんだ。あんな美人を目の前にしたら、あんなことやこんなことを考えてしまうじゃないか!」
「いやああーもっとエッチなことを!」
場が益々混乱してしまったが、そのまま自己紹介は続く。
「俺はイエロー二十七歳。一番年上かな。みんなよろしく!」
ピンクの横に座る無骨でガチムチなTシャツ男が立ち上がる。今は春だが、真冬でもTシャツだけで過ごしてそうで、見るからに暑苦しい。
「俺の能力は限界硬化。体を極限まで硬化させられるんだ。この手刀でなんでも貫けるぜ」
イエローは誇らしげに右手を差し出したが、暑苦しい男なんてみんな興味が無く、反応は無かった。
「私はブラック十九歳。よろしく」
次はブルーの横に座る白ギャル系の女性が立ち上がる。両耳に二つずつピアスが並び、少々露出が多めのスポーティな今風の服装。街中でも目立つ存在感だが、それは雰囲気だけが理由じゃない。彼女自身が凄く美形なのだ。
透き通るような肌に、大きな瞳とスッキリ通った鼻筋。スッピンでも確実に美人だろう。
「私は透視能力を持っているの」
「ええっ! 透視能力!」
驚いて思わず立ち上がってしまったブルーを、ブラックは上から下まで眺める。
「あっ、お前見たな!」
ブルーは思わず下半身を押さえた。
「見るほどの価値は無かったけどね」
「なにを! 平均ぐらいはあるだろ! 平均ぐらいは!」
「見栄でも大きいって言えないのが悲しいねえ」
(くっそ、ああ言えばこう言う、憎たらしい奴め)
「そんな服の下を見れるだけで、戦闘に活かせるのかよ!」
「服の下だけじゃないよ。なんでも透視できる……おえっ」
「大丈夫か、ブラック」
急にえづいたブラックにレッドが声を掛ける。
「内臓まで見ちゃった……」
(大丈夫なのかな? このメンバーで)
「さあ、最後に君の紹介を頼む」
「あっ、ああ……」
(いよいよ俺の番か。自己紹介なんて高校の入学式以来だから緊張するなあ)
「お、俺は青井大地、二十歳。兵庫県出身で……」
「だから個人情報を言うなって!」
(レッドに怒られたよ。自分だって名刺配ったくせに)
「俺はブルー。超能力は第六感です」
「第六感!」
(フッフッフ。みんな驚いてるな。それほど素晴らしい能力なのか)
「それただの勘の良い奴ってだけじゃ無いの?」
「超能力とは言えないと思いますわ」
「それで戦えるのか?」
みんな口々にブルーを責め立てる。
「まあまあ、みんな。第六感って言っても未来予知的なものじゃないのか。それなら十分戦力として使えると思うぞ」
レッドがリーダーらしくフォローする。
「あっ、いや、なんか今日は嫌な予感がするなと思ったら、電車が遅れて遅刻したり、天気予報が晴れでも雨が降るのが分かったり……」
「やっぱりただ勘が良いだけじゃない」
ブラックの言葉にみんな頷いて同意している。
「馬鹿にするな! 母ちゃんは『大地の天気予報は良く当たるね』って言ってくれるんだぞ」
「だから名前を言うなって!」
レッドに怒られたその時、天井に設置されたパトランプが回りだし、ブザー音が響き渡る。
「早速怪人が出現したようだ。みんな出撃するぞ」
「はい!」
「サイコチェンジ!」
レッドは大げさな掛け声と同時に、腕のリングのスイッチを押した。瞬間的に赤の戦闘スーツが体に転送され、サイコレンジャーレッドに変身する。
「サ、サイコチェンジ……」
他のメンバーは恥ずかしくて小声で呟きながら腕のリングのボタンを押す。それぞれのカラーの戦闘スーツが出現し、ブルー達は戦隊ヒーローに変身した。
「みんな! 恥ずかしがらずに、大きな声で叫ぼうぜ!」
(いや、これ言う必要あるのかよ……)
戦闘スーツは能力サポート機能が内蔵されている。各人の攻撃、防御、両方の機能を飛躍的にアップさせるのだ。
ブルー達は階段を駆け上がって屋上に出る。
怪人の出現場所には、屋上からヘリで向かうようだ。屋上に「サイコレンジャー5」と大きく書かれたヘリがスタンバイされていた。
(ええっ! こんな派手なヘリで出撃したら、地味な雑居ビルを本拠地にする意味無いんじゃないの?)
ブルーは疑問に感じたが、また怒られるのが嫌で黙っていた。
怪人は銀行を襲撃しているとの情報だ。ブルー達が駆け付けた時にはちょうど銀行から出てきたところだった。戦闘員達と札束が詰まったジェラルミンケースを、「悪の秘密結社ワルダ―」と側面に大きく書かれた車に積み込んでいる。
(自ら、悪と名乗ちゃうんだ……)
「待て! 怪人カメザメオン! 貴様の好きにはさせんぞ!」
(凄いなレッド。初見の怪人の名前まで知ってるんだ。確かにカメの甲羅にサメの顔をしている怪人ではあるが)
「来たな、サイコレンジャー5! お前達はここで死ぬのだ!」
(いや、カメザメオンも凄いな。俺達今日初めて招集されたって言うのに)
「黙れ! 超絶スピード! うわあ!」
レッドはそう叫んだかと思うと、次の瞬間にはカメザメオンの前で倒れていた。
(レッドの展開早っ! あっと言う間にやられるのね)
「大丈夫かレッド!」
「あいつ、動きは鈍いが凄く硬いんだ」
「よし、俺に任せろ! 限界硬化!」
レッドを助けたイエローが今度はカメザメオンに襲い掛かる。だが、ガチン! と派手な音が鳴ってもカメザメオンは平気な顔だ。
「確かにお前は硬そうだが、パワーはどうかな?」
「うわー!」
カメザメオンの一撃でイエローが吹っ飛ばされる。
(ガチムチなのにパワー無いんだ)
「ピンク! あいつの考えを探ってくれ!」
「はい! いやああー、あの人もエッチなこと考えてる」
(いや、あんたはもっと男慣れした方が良いよ)
「仕方ない、ブラック、あいつの体に弱点が無いか透視してくれ」
「分かった!」
レッドの指示で、ブラックが前に出てカメザメオンを見つめる。
「おえっ、内臓までみちゃった」
(おい、ホントに調整できないのかよ……)
結局、メンバーの超能力もカメザメオンには通じなかった。メンバー達はカメザメオンと戦闘員相手に肉弾戦で戦うがジリジリ押されていく。
ブルーは第六感以外取柄が無いので、少し離れたところでみんなが怪人や戦闘員と戦う様子を窺っていた。
「ブルー! お前も戦えよ!」
「いや、俺はただの勘が良いだけの男ですから……」
レッドの言葉にもブルーは動く気になれなかった。
(だってカメザメオン強そうなんだもん)
「頼む、ブルーも戦ってくれ!」
「お願いブルー。第六感を使って!」
「あんた男でしょ! 勘でなんとかしてみなさいよ!」
(みんなが俺に頼ってきた。こんな美味しい場面はなかなか無い。ここで立たなきゃ男が廃る)
ブルーは俄然やる気が出てきた!
「よしみんな、俺に任せろ!」
ブルーはカメザメオンの前に進み出る。
「ほう、今度はお前が相手か。ヒョロガキは怪我するからすっこんでろよ」
「俺もそうしたいがな、みんなの希望をしょってるんだよ! 引くことは出来ねえのさ」
ブルーは強く願った。何か有効な予感が出て来るようにと。
(閃け閃け……)
ブルーの瞳が鋭く輝く。
「もうすぐ、雨が降る! 大雨だ!」
「なに!?」
ブルーの言葉にカメザメオンは驚いた。
「こんな時に何を言ってるんだ!」
レッドが駆け寄って来てブルーを責める。
「いや、母ちゃんも俺の天気予報は良く当たるって……」
「あんたホントに馬鹿?」
ブラックの容赦ない言葉が飛ぶ。散々な言われようだ。
と、その瞬間、空から滝のような大雨が降って来た。傘が有っても意味が無いくらいの大雨だ。
「うわあ! 俺は水が弱点なんだ!」
(ええっ!? カメなのに? サメなのに?)
カメザメオンが雨に打たれて苦しみだす。慌てる戦闘員を蹴散らし、ブルー達は特殊ケーブルでカメザメオンを捕縛した。
「凄いぞ、ブルーお手柄だ!」
「ブルー、見直しましたわ」
みんなが口々にブルーを褒め称える。
「みんな、ちょっと待って。別にブルーが予測しなくても、大雨は降ったんじゃないの?」
ブラックが余計なことを口走った。
「そんなことはどうでも良いじゃないか! これからも力を合わせて頑張ろうぜ!」
ブルーはみんなの肩を抱き、満面の笑顔でそう言った。
※今回は私の作品「世界を守れ!(笑)サイコレンジャー5」の第一話を使いました。興味があれば、続きも私の作品リストから読んで頂ければ幸いです。
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