第107話 一月十五日は手洗いの日

 P&Gが制定。

 手が五本指であることから、「い(一)い(一)て(五)」の語呂合せ。



「おててを洗おう~おててを洗おう~おーおおっおーおててを洗おう~」


 小学三年生の息子が、洗面所で手を洗いながら、最近自分で作った「おててを洗おうソング」を歌っている。

 息子はいろいろな日常の作業を歌にして、それらを実行する時に歌っている。彼なりに面倒なことを楽しく出来るように工夫しているのだと思う。


「指の股も爪の間もワンツー、ワンツー」


 ちょっ、どうしてそこ、三六五歩のマーチ風なの。

 余りにも面白くて、私は大笑いしてしまう。これは自分だけで楽しむのは惜しいと考えた。


「ちょっともう一回、その歌を歌いながら手を洗ってよ」


 私はスマホを持って、洗面所に行き息子に頼んだ。


「どうして?」

「動画に撮ってツイッターでみんなに観て貰うの。人気者になるかもよ」

「ホント!」


 息子は目を輝かせて、また歌いながら手を洗ってくれた。

 息子を撮影した私は、早速動画を添付してツイートしてみた。すぐに、馴染みのフォロワーさんが「可愛い」とコメントをくれて、リツイートまでしてくれた。良好な反応がポツポツ来ていたので、私はお礼のコメントを返してスマホを置き、夕飯を作り始めた。

 夕飯の準備が終わり手が空いたので、私はまたツイッターを覗いてみた。


「何これ?」


 そこには見たことの無いくらいの、いいねやリツイートやコメントが数多く届いていた。


「バズってる……」


 こんなこと初めてなので、どうして良いのか分からず狼狽えた。とりあえず、まとめてお礼のコメントをツイートして様子を見ていた。

 時間が経つに連れ、治まるどころか、トレンドに「おててを洗おう」が入るくらい、拡散は続いた。


 二、三日はバズり続けたが、やがて治まって来た。その後、ポツリポツリと「あの歌のお陰で娘が自分から手を洗うようになりました。ありがとうございました」といった感じのコメントが複数入って来て嬉しかった。

 息子は学校で話題の人となったらしい。先生も「おてて洗おうソング」を気に入って、クラスのみんなで歌いながら手を洗ったみたいだ。

 気まぐれで撮った動画が人の役に立って、本当に良かったと思う。それにしても、ひとつ前に息子が作った「おやすみ前のおしっこ行く行くソング」にしなくて良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る