第101話 一月九日はとんちの日

 とんちで有名な一休さん(一休宗純)から、「いっ(一)きゅう(九)」の語呂合せ。



 同棲している彼は、とんちクイズが大好きだ。とんちクイズと言っても、問題は普通のクイズと変わりない。じゃあ、何がとんちかと言うと、彼曰く「とんちとは、即座に働く知恵なんだよ。だからゆっくり考えて答えを出すものじゃないんだ」そうだ。だから、クイズを出して五秒以内に答えないと、とんちクイズじゃ負けになるらしい。

 私たちは、毎日私が問題を三問用意して、とんちクイズ勝負をしている。私が出したクイズに彼が五秒以内に答えられなかったら私の勝ち。一問ごとに翌日の家事を賭け、負けた方が担当することにしている。三つ全てに勝ったら、翌日は家事をしなくて良いのだ。


「じゃあ、明日の料理担当を決める問題いくよ!」

「さあ、来い!」

「家族総出で事務職をしている家の、パソコンのキーボードが壊れて仕事が出来ない。どのキーが壊れてた? 一、二、三……」

「K。か行(家業)が打てなくなるから」

「うわー、正解。これを答えられるとは思わなかったわ」

「簡単簡単、次行こう」


 こんな感じで、私たちは毎日楽しく暮らしている。もう同棲を始めてそろそろ一年になる。私はずっとこのまま彼と一緒に居たいと思っていた。



「今日の一問目、洗濯担当の問題を行くよ。一心同体の二人がゴールイン! これ、なーんだ? 一、二……」

「結婚!」


 彼は迷いなく答えた。引っ掛かったな。正解は二人三脚だよ。


「はい、ざーんねん! 答えは……」

「結婚です!」

「ええっ、違うよ……」


 いつもなら素直に負けを認めるのに、今日は引き下がらない。そんなにも洗濯が嫌なの? いつも普通にやってるのに。


「結婚です。だって、一心同体になるまで愛し合ってる二人がゴールイン。結婚以外ないです」

「愛し合ってるなんて言ってないのに」

「いや、愛し合ってます。だって、一心同体だから。あっ、もしかして幸せな結婚? そうだ、答えは幸せな結婚です!」

「違うって!」


 なんだか彼がウェストランドの井口さんみたいになってきた。出題者が違うと言ってるのに、なぜか聞いてくれない。


「どうして今日はそんなに強引なの?」

「強引も何も正解だからです。証拠を見せます」


 彼はそう言うと、寝室に入って、また戻って来た。左手を後ろにして、何か隠し持っているみたいだ。


「あなたを一心同体のように愛してます。俺と結婚してください」


 彼は後ろに隠していた左手を前に出す。その手には指輪のケースが乗っていた。


「えっ? なにこれ? これがしたくて、あんな強引なこと言ってたの?」

「う、うん……」


 彼はバツが悪そうに視線を逸らす。


「えっ? いつから用意してたの?」

「あっ、ひと月ぐらい前」

「ええっ、それじゃあ、もし結婚って答えられるクイズが出なかったらどうするつもりだったの?」

「もう少し待っても出なかったら、もっと強引にでも結婚って答えたかなあ……」


 何だか、いたずらっ子が言い訳しているようで、可笑しくなってきた。


「馬鹿ねえホント……」


 私が呆れ顔から笑顔になると、彼もホッとしたように微笑んだ。


「はい、正解。答えは結婚よ。私の負け。明日の洗濯は私の担当です」

「じゃあ……これは?」


 彼は手の持っていた指輪のケースを開けて私に差し出す。中にはダイヤの指輪が入っている。


「ありがとう。プロポーズ嬉しいよ」


 私は彼の手から指輪を受け取り、左手の薬指に嵌める。

 左手を目の前まで上げて指輪を近くで見つめた。


「綺麗……ありがとう」


 私は彼に抱き着いた。彼も私を抱きしめてくれた。

 一心同体の二人がゴールイン。私にも結婚の他に答えは無いと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る