第96話 一月四日は石の日、ストーンズデー
「い(一)し(四)」の語呂合せ。
この日に、地蔵・狛犬・墓石など願いがかけられた石に触れると、願いが叶うと言われている。
私は今日、
「今日四日は石の日で、お地蔵さんや狛犬に触ると願い事が叶うのよ」
拝殿の前に来た時、今日の○○の日に詳しい依里が私と麗美に教えてくれた。
「それって、初詣でお参りするのと、どっちの方がご利益があるの?」
「えーどうなんだろう?」
麗美が素朴な質問をすると、依里は困ったようにそう言った。
「両方すれば良いでしょ。どちらもこの神社で出来るんだから」
私がそう言うと、二人ともそうだねと納得した。
私たちは拝殿にお参りしてからおみくじを引き、狛犬の前まで戻った。台座が小さいので無理せずに触れそうだ。
「これに触れば良いのよね」
私は一番に狛犬の横に立ち、背中を撫でるように触った。
お参りした時と同じように、心の中で「もっと成績が良くなって依里や麗美と同じ大学に合格出来ますように」と願いながら。
実は三人の中で私が一番成績が悪い。依里はあまり勉強しなくても物覚えが良くて成績が良いタイプ。麗美は両親が教育熱心で昔から塾などで鍛えられていた。私たちの高校は地域一番の進学校で、普通なら私は合格出来なかっただろう。でも依里の協力のお陰で何とか通えている。でも、定期テストではやっぱり順位が下の方だ。今のままでは二人と同じ大学に合格することは出来ないだろう。
(その願い、お前の努力次第で叶えてやろう)
狛犬を撫で続けていると、頭の中に声が聞こえて来た。
「えっ? 今の声は誰?」
私は驚いて声を上げた。
「何か声がした?」
「何も聞こえなかったよね」
依里と麗美は不思議そうな顔をしている。私だけに聞こえて、二人には聞こえなかったのか。
私は狛犬の顔を見たが、触る前と変わらず、ごく普通の石で出来た狛犬らしい顔をしている。
「熱心にお祈りしてたね」
「えっ?」
神社を出た後、依里に言われた。
「分かった。彼氏が欲しいって、お願いしたんでしょ」
麗美がからかうように言う。
「違うよ。彼氏よりもっと大切なお願いしたの」
キッパリとそう言った私の顔を、二人はキョトンとして見つめる。
「えー何か教えてよ」
「そうよ。私たちも言うから教えてよ」
依里と麗美は私のお願いに興味を覚えたようだ。
「内緒。誰かに言うとご利益が無くなるでしょ」
「えー」
二人は不満そうに、同時に声を上げる。
「そうだ、今から私の家で勉強しようよ。受験まであと一年だし、正月から頑張るよ」
「うん、良いけど……」
「そうしようか……」
私が似合わないことを言い出したので、二人は呆気にとられる。
「そうと決まったら、私の家に急ごう!」
私だけに聞こえたのは、きっとあの狛犬の声だ。私が頑張れば、二人と同じ大学に行けるんだ。
私は猛烈にモチベーションが湧いてきた。
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