第95話 一月三日はひとみの日

 眼鏡・コンタクトレンズの業界が制定。

 「ひ(一)とみ(三)」の語呂合せ。



 今日、私は学校に眼鏡デビューする。

 私は元々視力が弱かったが、高校に入るまでは何とか我慢してきた。だが、とうとう黒板の文字が読めなくなり、眼鏡を掛けないと生活に支障が出るほどになってしまった。

 コンタクトも考えたのだが、メンテが面倒なのとお金が掛かるのとで眼鏡を選択した。

 眼鏡を掛けるにあたり、心配だったのが自分に似合うのかどうか。片思いしている佐川君に変な顔になったと思われたらどうしよう。それが一番の心配だったのだ。

 眼鏡は赤い細めのフレームの物を選んだ。店員さんは似合ってますよと褒めてくれたけど、やっぱり自分の顔に違和感がある。

 眼鏡が出来上がり、明日からこれを掛けて登校すると言う夜には、何度も鏡で自分の顔を見てしまった。でも、見れば見るほど不安になった。

 朝になり、私は不安な気持ちを抱えたまま、学校に向かう。


「おはよう!」


 途中でいつも一緒に登校している友達の祐実ちゃんと合流した。私は自分の気持ちを悟られないように、普段より元気よく挨拶した。


「おはよう! 眼鏡似合ってるね。カワイイよ!」


 祐実ちゃんが笑顔でそう言ってくれた。


「ホント? 嬉しい。ホントに変じゃない?」

「全然変じゃないよ。良く似合ってるよ」


 祐実ちゃんは優しいので、悪いことは言わないと思っていたが、それでも褒めて貰えたことは嬉しくて安心した。

 私は気分良くして、祐実ちゃんと一緒に登校した。学校で会った仲の良い友達は、みんな眼鏡を似合うと言ってくれた。でも肝心な佐川君がどう思ってくれるか。それが一番重要だった。

 教室に入ると佐川君が居た。


「おはよう!」


 私は佐川君の背中に挨拶をした。挨拶に気付いた佐川君が振り返る。


「あっ、おはよう」

「おはよう!」


 私はもう一度、佐川君に挨拶した。


「眼鏡にしたんだ。よく似合ってるね」


 一瞬、リアクション出来なかった。まさか佐川君が眼鏡を褒めてくれるとは思わなかったから。


「ありがとう!」


 私は舞い上がりそうなくらい嬉しかった。眼鏡に対する不安は見事なくらい消えていた。

 三か月後、私と佐川君は付き合いだした。更にその三か月後、私は佐川君から驚きの事実を聞かせて貰った。

 実は眼鏡を初めて掛けた日の前日、佐川君は祐実ちゃんから、眼鏡を掛けた私をどう思ったとしても褒めて欲しいと頼まれていたのだ。でも嘘を吐いた訳じゃなく、実際に似合うと思ったから褒めたそうだ。それ以降、私を意識するようになり、好きになって告白してくれたそうだ。

 私は祐実ちゃんの優しさに感動した。言葉に出来ないくらいの感謝だ。これからもずっと、一番の友達として大切にしたいと思った。

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