第94話 一月二日は初夢の日
昔から初夢で一年の吉凶を占う風習がある。
初夢の夜は大晦日、元日、正月二日、節分等があるが、一般には正月二日の夜の夢が初夢とされている。
室町時代から、良い夢を見るには、七福神の乗った宝船の絵に「永き世の遠(とお)の眠(ねぶ)りの皆目覚め波乗り船の音の良きかな」という回文(逆さに呼んでも同じ文)の歌を書いたもの枕の下に入れて眠ると良いとされている。これでも悪い夢を見た時は、翌朝、宝船の絵を川に流して縁起直しをする。
一月二日に見た夢が初夢と言うらしい。二日の夜に縁起の良い夢を見ると、良い一年になると言うことだ。
縁起の良い夢とは一富士二鷹三茄子。この夢を見るためには、七福神の乗った宝船に「永き世の遠(とお)の眠(ねぶ)りの皆目覚め波乗り船の音の良きかな」という回文が書かれた絵を枕の下に入れて眠ると良いとのこと。俺はネットで画像を探して枕の下に敷いた。
「おい、起きろ」
俺は声を掛けられて目を覚ました。目を開けると雲の上のような場所で、俺の前に七福神が立っていた。
「あんたたちは七福神か?」
「おおそうだ。お前がワシらの絵を枕の下に敷いて寝たから、夢に出て来てやったんじゃ。今日は特別に願い事を一つ叶えてやろう」
先頭に立つ大黒天が、俺にそう言う。
「いや、俺は七福神なんか望んで無いんだよ。一富士二鷹三茄子なんだよ」
俺はがっかりした。せっかく夢を見たと思ったのに、一富士二鷹三茄子じゃ無いなんて。
「ええっ! お前は何を考えとるんだ! 物凄く幸運なことなんじゃよ」
「俺が見たかったのは一富士二鷹三茄子の夢で、七福神の夢じゃないんだよ。だから一富士二鷹三茄子の夢を見させてくれよ!」
俺がそう叫ぶと、七福神達は呆れた様子でお互い顔を見合わせ、相談し始めた。
「ワシらとしては物凄く不本意であるが、出てきた以上何か願いを叶えん訳にはいかんのじゃ。だから、お前にこれから毎年一月二日は一富士二鷹三茄子の夢を見させてやろう。それで満足なんじゃな?」
「おお、それは有難いぜ」
「分かった。じゃあ受け取れ!」
大黒天はそう言うと、小槌を振り下ろす。
その瞬間、俺の目の前は一瞬ブラックアウトして、次の瞬間に富士山の山頂付近の空に居た。
富士山の頂上付近を俺は優雅に飛び回っている。何かにまたがっているのに気付き、下を見ると鷹が自分の背に俺を乗せていた。
「おお、一富士二鷹か」
俺が喜んだ次の瞬間、目の前に、皿に乗った茄子の天ぷらや茄子の煮浸しが現れた。箸が無かったので、俺はそれらを手づかみで平らげた。今までの食べたどんな食べ物より美味しかった。
「これで三茄子も揃った!」
俺は満足しきった気持ちで目が覚めた。
「俺は一富士二鷹三茄子の初夢を見たぞ。これで良い一年が過ごせる」
俺はこの幸運に喜んだ。でもなんだか大事なことを忘れていて、その時にチャンスを逃したような、ちょっと落ち着かない気持ちにもなった。
「まあ、気にするな。こんな良い初夢見れたんだから、俺は大満足だ」
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