第87話 十二月二十六日はプロ野球誕生の日,ジャイアンツの日

 一九三四(昭和九)年のこの日、アメリカのプロ野球との対戦の為、現存する中では日本最古のプロ野球チーム・大日本東京野球倶楽部(読売巨人軍の前身)が創立された。



「やっぱり、巨人が弱くなったのが、プロ野球人気が落ちてきた原因やな。憎まれるほどの強い存在が必要やって、最近分かるようになってきたわ」


 サッカーワールドカップ特集の放送を見ていたら、同棲している彼がいきなりそう言った。

 彼はガチの阪神ファンで、巨人はアンチのように目の敵にしている。だから、彼の口から巨人の弱体化を嘆くような言葉を聞くとは意外だった。


「私は昔の野球がどの程度人気が有ったのかよく分からないけど、人気が落ちて来たのは趣味が多様化してきて、人の興味が分散したからじゃないかな」

「そうか……確かにそれも有るんやろな」


 こういう意見が対立した時に、彼は自分の考えを頑固に押し通そうとはしない。ちゃんと冷静に相手の意見を聞いてくれる。彼のそんなところが好きだ。


「昔より観る人は減っているのかも知れないけど、今はパリーグの人気も上がっているし幅は広がっていると思うよ」

「確かにそうかも知れん。でも、最近寂しいんよ。昔は阪神が巨人に勝ったら凄く嬉しかったけど、最近は当たり前に感じてな……。張り合いが無いって言うか」

「そうなんだ」


 今でも巨人に勝ったら嬉しそうだし、負けたらかなり悔しそうだけど、前はもっと凄かったのかな。


「俺の理想としては阪神と巨人で優勝争いして球界を盛り上げる。それで昔のような人気を取り戻して欲しいんや」


 私たちが物心着いた時にはまだ巨人は強かったけど、阪神は暗黒時代でとても優勝争いしてたとは思えないんだけど。私も彼の影響でプロ野球を観るようになったから、その頃の状況は良く分からないけど、阪神ファン的にはライバル関係だったのかな。


「今回サッカーワールドカップを観て少し不安なんや。これだけええ試合をして日本中が盛り上がったし、サッカーに人気を取られるんやないかってな」

「もうすぐWBCもあるから大丈夫じゃないかな。きっと野球も盛り上がるよ。しかもWBCが終わってすぐにシーズンが始まるから、流れで観る人も増えると思う」

「そうか、そうやな! ええこと言うてくれるわ」


 彼は私の言葉で嬉しそうに笑った。

 球界が最高に盛り上がる阪神対巨人の伝統の一戦か。たぶん彼のような考えはオールドファンに多いのだろう。

 今は応援する球団も多様化していて、私はそれが将来的に見て、プロ野球界には良い流れだと思っている。でも、彼のようなオールドファンの考えもまたアリだ。それが本当の意味での多様化だから。

 阪神と巨人が最終戦間際まで優勝争いを続ける。どれだけ盛り上がるのだろうか。その時、彼と一緒に阪神を熱く応援している自分を想像したら凄く楽しそうだった。

 阪神と巨人、両球団共に頑張れ! 他球団も頑張って、球界が盛り上がればもっと良い。とりあえず、もうすぐ始まるWBCは彼と一緒に全力応援だ! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る