第75話 十二月十四日は忠臣蔵の日

 一七〇二(元禄十五)年のこの日、赤穂浪士四十七人が本所の吉良邸に討ち入りし、主君の仇討ちを成し遂げた。

 一七〇一(元禄十四)年三月、江戸城松之廊下で播磨赤穂藩主・浅野内匠頭長矩が、幕府の礼式を司る高家筆頭の吉良上野介義央に小刀で切りかかるという事件が起った。浅野には即日切腹、領地没収という厳しい処置がとられたが、吉良には一切のお咎めがなく、これが事件の発端となった。

 家臣たちは主君の仇を討つ為に綿密に計画を練り、翌年十二月十四日寅の上刻(現在の暦法では十五日午前三時ごろとなるが、当時は日の出の時間に日附が変わっていたので十四日となる)、大石内蔵助の率いる四十七人が、本所の堀部安兵衛宅に集まり、そこから吉良邸へ討ち入った。二時間の戦いの末、浪士側は一人の死者を出さずに吉良の首を取ることができた。

 世論は武士の本懐を遂げた赤穂浪士たちに味方し、幕府は翌年二月四日、一同切腹という処置をとった。

 この事件を題材として、歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』等百種にも登る作品が作られ、現在まで語り継がれている。



「今日はね、アコーローシーがおうちに入った日なんだよ」


 小学校からの帰り道、俊樹としき君が私に教えてくれた。俊樹君は私と同じ二年生なのに何でも知っている。私はいつも教えて貰ってばかりだ。


「どうしてアコーローシーはお家に入ったの?」

「それはね、でんちゅうで刀を使ったからだよ。だからね、お家に入ったんだよ」

「へえーそうなんだ」


 私は俊樹君の言ってることがよく分からなかったが、分かったような振りをした。だって何にも知らないと思われたく無かったから。あとでお母さんに聞いてみよう。



「ただいま!」


 私は家に帰ると、手洗いうがいもせずに、お母さんを探した。


「お帰り、愛理!」

「お母さん! 今日はアコーローシーがお家に入った日って知ってる?」

「アコーローシー?」


 お母さんは私の言っていることが分からないみたいだ。アコーローシーを知らないのかな?


「俊樹君が言ってたんだよ。今日はアコーローシーがお家に入る日で、電柱で刀を使ったからだって」

「今日は十二月十四日……アコーローシー……ああ、赤穂浪士! 忠臣蔵か」


 お母さんはアコーローシーが分かったのか、明るい顔になる。


「お母さん、アコーローシーがお家に入るの分かった?」

「お家に入る……赤穂浪士がお家に……もしかして討ち入り? お家に入るって!」


 お母さんはツボに入ったのか、大笑いし始める。


「もう、何が可笑しいのよ!」

「ごめんごめん、あー可笑しい。えっと、他には何だって?」

「電柱で刀を使うよ」

「殿中で刀を使うね。分かった。動画探してみるから、愛理は手洗いうがいして来なさい」

「はあい……」


 お母さんは本当に分かったんだろうか? 私が手洗いとうがいをして戻ると、お母さんはパソコンを用意してくれていた。


「これがアコーローシーよ」

「あっ、お侍さんだ」

「知ってるの?」

「うん、絵本で見たの」


 お母さんは動画をところどころ早送りしながら、アコーローシーのことを説明してくれた。なんと、アコーローシーは赤穂浪士で、お侍さんのことだった。


「ねえ、電柱は?」

「電柱は電信柱じゃなく、これよ」


(浅野内匠頭殿! 殿中でござる!)

(武士の情けじゃ! 討たせてくれ!)


「殿中って言うのはね。偉い人が住んでいるお家のことなんだよ。そこでは刀を使っちゃダメなの」

「そうなんだ。愛理は電信柱のことかと思った」


 その後もお母さんは忠臣蔵についていろいろ教えてくれた。

 最後には赤穂浪士四十七人が、浅野内匠頭に意地悪していた吉良上野介をやっつけた。


「ね、意地悪していたら、最後には成敗されちゃうんだよ」

「うん、意地悪しちゃダメってことだよね」


 今日は忠臣蔵についてたくさん勉強した。凄く物知りになった気がする。

 明日は俊樹君に話して、驚かせてあげよっと。

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