第73話 十二月十二日は漢字の日

 公益財団法人日本漢字能力検定協会が一九九五年(平成七年)十二月十二日に制定。

 同協会では毎年「今年の漢字」を全国から募集。いちばん多かった漢字を発表して、京都・清水寺貫主の揮毫でその字を清水寺に奉納している。

 日付は一二と一二を「いい字一字」と読む語呂合わせで、日本人ひとりひとりが毎年、「いい字」を「一字」は覚えて欲しいとの願いが込められている。



 昼休み、私は依里より麗美れみと一緒に食堂でお昼ご飯を食べている。麗美はクラスが違うのだが、友達になって以来、私たちはいつも三人一緒に行動していた。


「来週の月曜日は漢字の日なのよ」


 依里は記念日が好きで、時々こうして私たちに教えてくれる。


「あっ、それ知ってる。『今年の漢字』を発表する日でしょ」

「そうそう、麗美ちゃんも知ってたんだ」


 漢字の日って、「今年の漢字」を発表する日だったのか。


「私、『今年の漢字』ってあんまり好きじゃないのよね」

「えっ、どうして?」


 私の言葉を聞いて、麗美が不思議そうに聞いて来る。


「毎年の漢字に納得は出来るんだけど、理由や文字自体がネガティブな年があるでしょ。なんか嫌な記憶を思い出して嫌なのよね」

「ああ、なるほどね」

「じゃあ、私たちで『今年の漢字』を決めれば良いのよ。月曜日までにそれぞれ自分の『今年の漢字』を決めようよ」


 依里が面白い提案をしてきた。


「良いね。私がガツンとした漢字を考えて来てやるよ」


 私は乗り気でそう言った。


「私も乗ったよ」


 麗美もやる気満々なので、依里の提案通り、みんなそれぞれ「今年の漢字」を決めてくることとなった。



 週が明けて月曜日。いつものように、私たちはお昼休みに食堂でお昼を食べている。この後「今年の漢字」の発表をすることとなった。


「じゃあ、私から発表するね」


 麗美が嬉しそうに、一番手に名乗りを上げた。麗美は今日は朝からずっとそわそわしてて、よっぽど早く発表したかったのだろう。


「凄く積極的だね」

「麗美ちゃんの漢字楽しみ」


 私たちが期待の目で見ていると、麗美はノートを取り出し、体の前にセットした。


「さあ、発表するよ! ジャジャン! 私の今年の漢字は『友』です!」

「ええっ!」


 私は開かれたノートを見て驚いた。


「麗美ちゃん、『友』ってもしかして私たちのこと?」

「そう、私にとって、二人は初めて出来た友達なの。これは今年一番のビックニュースだったのよ!」


 麗美が照れながらも、誇らしげに言う。私はその言葉を聞いて素直に嬉しかった。


「ホント驚いたわ。実は私もこれなの」


 私もノートを取り出し二人の前で開いた。そこには「友」と一文字、大きく書かれている。


「私も幼い頃からずっと依里しか友達が居なかったから、麗美とも友達になれて嬉しかったの。まさか漢字が被るとは思わなかったけどね」


 私は少し照れくさくて頭を掻いた。


凛子りんこ~!!」


 横に座っている麗美が、半泣きで抱き着いて来る。


「私も二人みたいな友達が出来て嬉しいよ」


 依里も私たちを見て、もらい泣きしそうになっている。


「実は私も考えてきたのはこの漢字なの」


 依里はそう言って、持って来たノートを開ける。


「ええっ!」


 私と麗美は同時に声を上げた。

 依里のノートには大きく「友情」と書かれていたのだ。


「私の漢字は『友情』二人と同じ気持ちで嬉しいよ」

「依里、『今年の漢字』って一文字じゃなきゃ駄目でしょ!」

「あっ!」


 私が突っ込むと、依里はようやくミスに気付いたようだ。年末でこれだから、来年も依里の天然ボケには驚かされるんだろうな。


「でも、依里も同じ気持ちで嬉しいよ」

「ありがとう。麗美ちゃん」


 麗美のフォローで、依里は気を取り直した。


「まあ、依里だから仕方ないか」


 私がそう言うと、二人は笑顔で頷いた。

 こんな楽しい毎日がずっと続くと良いのにな。いや、依里が居る限り、ずっと続くに決まっているね。



凛子&依里シリーズ

第十一話 十月十一日はウィンクの日(オクトーバーウィンク)

第二十一話 十月二十一日はあかりの日

第四十六話 十一月十五日はいい遺言の日

第六十三話 十二月二日は美人証明の日

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