第58話 十一月二十七日は組み立て家具の日
カラーボックスの生みの親、株式会社クロシオの深谷政男氏の誕生日である一九四一年(昭和十六年)十一月二十七日にちなんで、同社が制定。
「またカラーボックス買って来たのかよ」
俺はホームセンターから帰って来た父さんが、抱えている箱を見て呆れた。
「コミックが増えてきたから整理しようと思ってな」
父さんは頭を掻きながら、笑顔で言い訳する。
「多過ぎるんだよ。少し要らないの売ったら? そのうち家中カラーボックスだらけになちゃうよ」
リビングの壁には隙間が無いくらいカラーボックスが並べられている。父さんの趣味のコミックが入れられているのだが、入り切れない分は床に積み上げられていた。確かにコミックは邪魔だから整理する必要はあるのだが、これ以上カラーボックスを増やすより売って欲しい。
「大袈裟なこと言うなよ。カラーボックス作って物を整理するのって、結構達成感があるんだぞ。組み立てから自分でやるからな」
「そんなもんで達成感って言われてもね……」
「疑うなら、一度やってみろよ。やらずに批判するのは誰でも出来るぞ」
そういう正論っぽい言い方されると弱い。ここで引くと負けた気がするからだ。
「分かったよ。やってやるよ」
俺はカラーボックスを組み立てることにした。
リビングのローテーブルを端に寄せ、スペースを確保する。部材を箱から取り出し、説明書を読む。
「まずは部品が足りてるかチェックしろよ」
「分かってるよ。うるさいな」
説明書を見ながら、欠品が無いかチェックする。全て揃っていた。
説明書を読んでいるとプラモデルを思い出した。こんな風に何かを作るのはいつ以来だろう。
「そこ、ちょっと押さえててよ」
「一人で作るから良いんだよ」
「ちぇっ」
父さんは俺が作っている様子を、横で楽しそうに眺めている。
だんだん箱の形になってきた。思ったより簡単だけど、物が大きいので作り応えがある。
「出来た!」
出来上がったカラーボックスを見ると確かに達成感がある。
自分で作るのが面倒だと思っていたが、実際やってみるとそれ程難しくも無かった。当たり前だけど、出来栄えもしっかりしてて素人が作ったようには見えない。
「見てよこの美しい出来栄え」
「おお上手く作れたな。じゃあ、空いているスペースに置いて、床のコミックを入れていけ」
「任せろよ!」
不思議なことに、カラーボックスが完成すると整理までやり切りたくなる。
床に積み上げられたコミックを作品別に、巻数順に並べて入れていく。見る見る床に物が無くなっていくのは気持ちが良い。
「よし! 全て完了!」
「どうだ? 達成感があっただろ?」
「認めるのは悔しいけど、確かに達成感があって気持ち良かったよ」
ここは素直に負けを認めるのも、男ってもんだ。
「じゃあ、もう三つぐらいカラーボックスを買ってくるか」
父さんがとんでも無いことを言い出した。
「三つもカラーボックスを買ってどうするんだよ! もう置くところが無いだろ」
「あるだろ、お前の部屋。前から整理整頓が出来てないと思っていたんだ。買って来るから、部屋を片付けろ」
「うっ……」
確かに父さんの言う通りなので反論出来ない。
仕方ない。自分の部屋もカラーボックスで整理整頓して達成感を味わうか。
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