第52話 十一月二十一日は世界ハロー・デー(World Hello Day)
一九七三年の秋、エジプトとイスラエルが紛争の危機(第四次中東戦争)となったことをきっかけに制定。十人の人にあいさつをすることで、世界の指導者たちに「紛争よりも対話を」とのメッセージを伝えるという日。
「ただいまー!」
小学二年の娘、
「お帰り!」
「あっ、お母さん、こんにちは」
私が出迎えると、愛理は思い出したように頭を下げて挨拶する。
「こんにちは」
私も愛理に合わせて頭を下げる。
「どうしたの? いきなり『こんにちは』って」
「今日はね、世界ハローデーだからだよ。十人の人に挨拶すると、世界が平和になるんだって。先生が言ってたよ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、手を洗ってうがいして来なさい」
「はーい」
愛理が洗面所に行った隙に、世界ハローデーを調べてみた。そうか、十人に挨拶しないと駄目なのか。
愛理には知らない人と話しては駄目と言い聞かせているから、まだ十人に挨拶していないだろう。だったら、これから挨拶してくるって展開になる筈だ。
「お母さん、今から挨拶してくるね」
私の予想通り、手洗いした愛理は戻って来てそう言った。
「愛理は何人に挨拶したの?」
「まだ三人だよ」
そうか……どうする? 愛理一人で行かせるのも、誰に会いに行くか分からないからな……。
「そう、じゃあ、お母さんが手伝ってあげるよ」
やはり愛理一人で挨拶回りさせるのは心配なので、付いて行くことにした。事前にラインで相手と連絡を取って効率よく回ろう。
私も夫も地元で生活しているので、近所に親戚が多い。それでなんとか人数分こなせると思う。
まずは義実家からだ。連絡したら、今は義母と、義実家に同居している義姉が居るらしい。
「愛理ちゃん、いらっしゃい!」
義実家に行くと義母が満面の笑みで出迎えてくれた。同居している義兄夫婦には中学生と高校生の男の子の子供しか居ないので、義母は愛理のことを溺愛している。
「お祖母ちゃん、こんにちは! おばさん、こんにちは!」
愛理は義母と義姉に頭を下げてきちんと挨拶をした。
「すみません、お手間取らせまして」
「良いのよ。さあ、上がってちょうだいよ」
「いえ、これから他にも行かないといけないので……」
事前に事情を連絡して、挨拶だけで引き上げると言っていたのに、義母は分かっていて無視しているんだろ。
「あなたは帰ってくれても良いのよ。愛理ちゃんはゆっくりして行くから、迎えに来てくれれば良いわ」
「お義母さん、それは出来ないって言ってるでしょ。困らせないでよ」
暴走気味のお義母さんを義姉が止めてくれた。本当にありがたい。
「もう……あ、そうだ。ちょっと待っててね」
義母はそう言って奥に消えて、またすぐ戻って来た。
「ほら、愛理ちゃん、ちゃんと挨拶できたご褒美よ」
義母はビニール袋にいっぱいのお菓子を持って来た。正直そんなにも愛理に食べさせたくないし、迷惑だと思ったが言えなかった。
「ありがとう。お祖母ちゃん」
義母と義姉にお礼を言って、義実家を出てきた。次は私の実家だ。
「あら愛理ちゃん、いらっしゃい!」
実家では母が一人で出迎えてくれた。
「お祖母ちゃん、こんにちは!」
「はい、こんにちは。上手に挨拶できたね。はい、これはご褒美よ」
「お母さん!」
まさか母までお菓子を出してくるとは思わなかった。
「何よ、あっちの家では受け取ったんでしょ。愛理ちゃんが喜んでいるから良いじゃない」
もうすでにお義母さんから話が行っていたのか。母は愛理に対してお義母さんと張り合っているふしがあるから、言っても聞かないだろう。
「お祖母ちゃんありがとう」
愛理も嬉しそうにお礼を言ううから余計に断り辛くなった。
こうして、他の親戚の家を回るたびにお菓子が増えていく。もうハローデーだかハロウィンだか分からない感じだ。
「あと一人だね」
最後の一人はどうしようか? 他に連絡できる親戚はいないし、ママ友にしようかな。
「もうこれで良いよ」
「えっ、あと一人はどうするの?」
「あと一人はお父さんがいるから。最後の一人はお父さんにしようって決めてたの」
「そうか、そうだね。そうしよう」
愛理はお父さんが好きだからな。あとで夫に連絡しておこう。きっと喜ぶわ。
ひょんなことから親戚回りすることになったけど、みんな愛理の笑顔を見て嬉しそうで良かった。たまにはこうやって挨拶して回るのも良いかもね。お菓子は遠慮するけど。
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