第51話 十一月二十日はピザの日
凸版印刷が一九九五年に、ピザをイタリア文化のシンボルとしてPRする日として制定。
ピザの原型であるピッツァ・マルゲリータ誕生に関係した、ウンベルト一世の妻・マルゲリータの誕生日。
今、俺の目の前には、宅配で頼んだLサイズのピザが四枚ある。肉類たっぷりの分とシーフードたっぷりの分。特製チーズがこれでもかってぐらい乗っている分と期間限定の北海道産の食材を使った分。トータルで二万円弱もする商品だ。
俺はアパートで一人暮らししていて、今も俺一人。後から誰か来る予定も無い。
この四枚全て食べたら、お腹壊して死ぬかもな。でも、それでも良いか。俺のことなんて誰も気にしちゃいないし。
俺はやけっぱちな気持ちになっていた。四月には心を躍らせて大学に入学したのに、今やボッチで話をする友達も居ない。サークルも入ってみたが溶け込めずに幽霊会員だし、ゼミでも存在感が薄い。内向的な自分が悪いと分かっているが、変えることも出来ないでいた。
誰からも連絡が来ないのに、スマホを気にする自分が嫌で、電源を切ってから一週間が経った。でも、誰もアパートを訪ねて来ない。
もう自棄になったので、今まで高くて買ったことの無い宅配ピザをLサイズで四枚も注文したのだ。
これを食べ終わったらどうするのか? 自分でも分からない。でも、こんな馬鹿なことをする馬鹿な自分を笑い飛ばしてみたかった。
「さあ、食べるか」
俺はピザを四枚ともテーブルの上に広げ、食べ始めようとした。
と、その時、ピンポーンと玄関チャイムが鳴った。
何か注文した記憶は無いし何かの勧誘だったら面倒なので、出ないでおこうと思ってたら続けざまにピンポーンピンポーンと鳴らされた。仕方ないので出ることにした。
「はい、どなたですか?」
「
「お兄ちゃん、連絡したのにどうして出ないのよ!」
ドアを開けると、高校時代の友人である
「どうして……」
あまりに意外だったので、それ以上言葉が出ない。
光は高校時代の友人で、俺の唯一の親友だった。同じ大学目指して勉強し、受験したが俺だけが合格。それ以降気まずい関係になって、俺が一人暮らしを始めてからは疎遠になっていた。
「文佳ちゃんと一緒に行くって連絡したのに、返事しないからいきなり来たんだよ」
「そうよ。お兄ちゃん、スマホどうしたの?」
もしかして、俺がスマホの電源を切ってから連絡してきたのか。まさか、今まで何の連絡も無かったのに、こんなタイミングで来るなんて。
「どうして、二人で来たんだ?」
今まで光と文佳に接点は無かった筈だ。
「俺たち、予備校で知り合って、今は付き合ってるんだよ。で、大学の下見がてら、お前の様子を見に行こうって」
「来年は私たちも、同じ大学に行くからね。二人ともA判定なんだよ」
「そうなのか!」
二人がそんな関係になっているとは知らなかった。来年から同じ大学に通えるなら、それは俺にとっても嬉しい知らせだ。
「俺、浩紀に謝りたかったんだ。大学に落ちて気が滅入ってたから、お前に嫉妬してしまったんだ……」
「大丈夫だよ。俺は気にしてないから。来年から同じ大学に行けるなら嬉しいよ」
光が素直に自分の気持ちを話してくれて、本当に嬉しかった。また元のように親友に戻れると感じた。
「まあ、立ち話もなんだから、中に入れよ」
「ああ、ありがとう」
俺は二人を部屋の中に迎えた。
「このピザどうしたの! 誰か来る予定だったの?」
中に入った二人はテーブルのピザを見て驚く。一人で食べる量ではないので当然と言えば当然だ。
「そ、それは……」
俺がどう返事をして良いか迷っていると、またピンポーンと玄関チャイムが鳴った。
「あっ、誰か来た」
俺は返事を誤魔化すように、玄関に向かう。
「はい」
「あっ、良かった! 岩崎君一週間も休んでどうしたの?」
ドアを開けると、同じゼミの
「ごめん、ちょっと体調崩してたんだ。もう大丈夫だけど」
精神的にダメージを受けて、引きこもっていたんだから嘘じゃない。
「そうなんだ。今は大丈夫なら良かった」
加山さんは本当にホッとした顔をしている。こんな俺を心配してくれてたなんて、言葉に出来ないくらい嬉しかった。
「誰? お兄ちゃんの彼女さん?」
「ち、違うよ。同じゼミの加山さんだよ」
「あっ、加山です」
「どうぞ、汚いところですが、上がってください」
光と文佳が奥から出て来て、加山さんを中に誘う。
汚いは余計だが、俺一人だったら絶対に部屋に上がるように誘えなかっただろう。ナイスだ光。
「凄い! ピザパーティーしていたんですか?」
加山さんも大量のピザを見て驚く。
「これからピザパーティーですよ。加山さんも一緒にどうぞ」
文佳が自然に加山さんを誘ってくれた。
ピザが来た瞬間に、一人だったアパートの中がにぎやかになった。ピザが起こしてくれた奇跡だ。
そう思ってピザを見ると「お前ひとりじゃ食べきれないから、友達を呼んでやったぞ」と言ってるように感じた。
ありがとう、またピザパーティーを開くようにするよ。俺は四つの大きなピザに誓った。
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