第50話 十一月十九日は緑のおばさんの日

 一九五九(昭和三十四)年のこの日、通学する児童を交通事故から守るための学童擁護員(緑のおばさん)の制度がスタートした。



 今日は朝から少し憂鬱だ。PTAで通学の立ち当番、いわゆる「緑のおばさん」の順番が回って来たのだ。


 こういうPTAの役目が回って来ると、旦那は途端に逃げ腰になる。俺の仕事は時間の融通が利かないだのなんだの言って、自分が出ようとはしない。同じ正社員の共働きなのに、いつも職場に無理を言ってPTA活動に出るのは私だ。まあ現状PTAに出て来るのはほとんど女性だから、シャイな旦那が逃げたくなるのも分かるけどね。その分家事は余分にやって貰ってるからヨシとするか。


 立ち当番自体は嫌じゃない。出勤前にやらなきゃいけないのが面倒なだけで、子供達の元気な笑顔を見るのは癒されるから。やるからには仕事のことは忘れて、子供たちの為に頑張って行こう。


 私は出勤の準備を整えて、息子に「遅刻しないように家を出るのよ」と声を掛けて家を出た。


立ち当番の場所は、通学路にある信号のない横断歩道。ここで児童を誘導する。息子の通う小学校は地区ごとに集団登校しており、児童は数名ずつここを通って学校に向かっているのだ。


「おはよう!」


 児童達が通るたびに挨拶する。児童たちも元気な声で「おはようございます!」と返してくれる。私は憂鬱だったことも忘れ、児童の笑顔に癒されていた。


 息子たちのグループはまだ通っていない。うちは校区でも一番遠いので最後に通過する筈だ。

 来た!

 六年生で班長の息子を先頭にして、地区のグループが登校して来る。しかも、息子は一年生の愛美まなみちゃんと手をつないで向かって来るではないか!

 そう言えば、他のグループも上級生が下級生と手をつないで歩いてたな。そういうルールがあるのだろう。


「おはよう!」


 息子たちが近付いてくると、私はひと際大きな声で挨拶した。


「おはよう……」


 他の子は元気な声だったのに、息子は私に見られて照れくさいのか、顔を赤くして小さな声で返してくる。ちゃんと立派に班長しているのだから、胸を張ったら良いのに。

 少し冷やかしてやりたくなったが、止めておいた。旦那に似てシャイな息子は、きっと本気で傷付くだろうから。

 でも、小さな子を守るように手をつなぐ姿はカッコ良かったよ。お母さんの胸にしっかりと焼き付けておくからね。

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