第45話 十一月十四日はいい上司(リーダー)の日
一般社団法人・日本リーダーズ学会が制定。
いい(一一)上司(十四)の語呂合わせ。
今日から俺は課長に昇進した。まあ、課長と言っても、小さな会社なので部下は五年目の男性社員の
「おはようございます!
課長に昇進した初日、出社した高坂が俺に挨拶してきた。
「おはよう。課長なんて呼ばなくて良いぞ。別に何か変わった訳じゃないからな」
「そういう訳にはいきませんよ。今日から課長なんですから、ちゃんと三枝課長と呼びます。でも、ホント何も変わらないですよね」
俺たちが何も変わらないと言うのには訳がある。
俺が課長になる前は、定年間近の
この吉村が仕事をしないので、仕方なく俺が殆ど課長の代わりに仕事をしていたのだ。だから吉村が退職して、俺が課長になっても今までと変わりが無いのだ。
吉村が仕事をしない課長だったとは言っても、一人少なくなったのは事実だ。欠員が出たので課員を補充して欲しいのだが、社長は新卒を採用したいようでしばらくは現状の体制で我慢してくれと頼まれた。まあ、負担はそれほど変わらないだろうと、俺も承知した。
「三枝さん、高坂さん、おはようございます! あっ、三枝課長でしたね!」
出社してきた藤岡も同じような言い間違いをして、俺と高坂は顔を見合わせて笑った。
「吉村さんが居なくなるが、二人の仕事には何の影響もないから。今まで通り頑張ってくれ」
俺は改めて二人にそう告げた。こうして俺が課長に昇進しての、新体制がスタートした。
課長に昇進してから二か月が経った。吉村が辞めてからも、課内は何事もなかったように以前と同じ仕事量をこなしている。だが、それは表面上だけで、実際には俺の負担が増していた。
仕事をしていなかったとは言え、吉村は課長として最低限の各種承認はしていたのだ。かなりチェックがいい加減だったので楽に見えたが、実際自分でやってみると大変だった。ミスが無いようにしっかりチェックしているのも理由だったが。
おまけに俺が以前から受け持っていた仕事も、そのまま引き続き担当している。部下の二人には、俺が課長になっても何も変わらないと言った手前、仕事を割り振りしていなかったから負担が増したのだ。
午後十時。今日も増えた仕事を処理する為に、俺は残業していた。毎日残業続きで、家庭を蔑ろにしているし、体もキツイ。
と、その時、事務所のドアが開いた。もうこの時間は俺しか残っていない筈なので驚いた。
ドアの方を見ると、高坂と藤岡が立っている。
「二人とも、どうしたんだ?」
二人ともすでに帰った筈なので、俺は不思議に思った。
「どうしたじゃ無いですよ。水くさいじゃないですか、一人で仕事をしょい込むなんて」
高坂は怒ったように、そう言った。
「いや、今日はたまたま遅くなっただけだ。心配せずに早く帰れよ」
「嘘です! 私、奥さんから聞きましたよ。凄く心配していましたよ」
そう言えば、高坂も藤岡も家に招待したことがあった。その時に妻と連絡先を交換したのだろう。
「俺は課長なんだ。お前たちの上司なんだよ。自分の仕事を部下に振るなんて、情けない上司にはなりたくないんだ」
俺は吉村とは違う。部下に頼られる、良い上司になりたいんだ。
「三枝課長、いや、三枝さん。情けなくなんかないですよ。俺たちは上司と部下である前に、同じ課の仲間じゃ無いですか。三枝さんが一人で頑張っているのに、黙って見ていられませんよ」
「そうですよ。三枝さんは課長になる前から、私たちの立派なリーダーです。だから遠慮なく私たちを使ってください。新人が入るまで三人で乗り切りましょう」
「お前たち……」
二人にこれだけのことを言って貰えるなんて、俺は心から嬉しかった。こんなにも支えてくれる部下を信頼してなかったなんて、俺は上司失格だ。
「すまん。俺は一人で空回りしてたんだな。こんな良い部下を持って、俺は幸せ者だ。これからは一人で溜め込まず、二人を頼るよ」
「ありがとうございます。俺たち全力で三枝さんを支えますから」
「三人で頑張りましょうね!」
こうして、俺たちの三人の結束が高まり、課は本当の意味で新体制をスタートさせた。
俺も油断せず、これからも良い上司になれるように二人を信じて頑張ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます