第34話 十一月三日はレコードの日
日本レコード協会(RIAJ)が一九五七(昭和三十二)年に制定。
「レコードは文化財」ということから、文化の日を記念日とした。
今日、私は今までで一番ドレスアップしてデートに来ている。
今回のデートの約束をした時に、三年付き合っている二歳年下の洋介(ようすけ)から、大事な話があると言われているのだ。
予約しているレストランもいつもよりグレードが上の店で、ドレスコードもあると言われた。洋介もいつもと違いスーツで来ている。
これはどう考えても、プロポーズしかないでしょ。
私には、デートの舞台以外にもそう考える理由がある。洋介が私の友達に、私が好きな指輪のブランドを聞いて回っていたと情報を得ているのだ。
緊張しながらの食事が終わり、今は食後のカクテルを飲んでいる。私はいつ洋介がプロポーズを切り出すのかとドキドキしながら待っていた。
「実は真理(まり)にプレゼントがあるんだ」
キタ! 絶対に婚約指輪だ!
「な、何かな?」
私は知らない振りして訊ねる。
「これ、何か分かるかな」
洋介は鞄から、ラッピングされた、色紙より少し小さめの平べったい物を差し出してくる。
「な、何これ?」
今度は本当に困惑して聞いた。
「開けてみてよ」
私は悪い予感しかしなかった。洋介は常識外れなことをしでかす時がたまにあるのだ。
そうは言っても開けてみなけりゃ何か分からないので、言う通りにしてみた。
「何これ?」
包装紙を外して中身を見ると、一枚のシングルレコードだった。
「『ゴダイゴの銀河鉄道999』のシングルレコードだよ。あっ、もしかしてレコードって知らない?」
「知ってるわよ。知ってるけど、どうしてこのレコードを私にプレゼントしてくれたの?」
「その『ゴダイゴの銀河鉄道999』は父さんの思い出のレコードなんだ。今は持っていなくて、父さんずっと売ってないか探しててね。俺が偶然見つけたから、真理から父さんにプレゼントしてあげたら凄く喜ぶと思うんだ」
「はあ? 何言ってんの?」
得意げな顔して話す洋介に、私は怒りが込み上げてきた。
「あっ、だって真理は父さんが怖そうに見えるって言ってただろ。だからこれで親しくなれるかと思って……」
私の怒りを感じて洋介は途端に焦りだす。
「はあ? じゃあなに? こんな物渡す為に、わざわざお洒落して高級レストランに来た訳? 何考えてんのよ!」
「あっ、それは違うんだ、その……」
洋介は慌ててまたゴソゴソ鞄を漁り、小さな箱を取り出した。
「ほら、これを渡そうと思って」
これで私の機嫌が直ると思ったのか、洋介は嬉しそうな顔して指輪の箱を蓋も開けずに片手で差し出す。レコードを渡した時の方がよほど丁寧だったぐらいだ。
「あのねえ……ほらじゃないでしょ? 何か言うことがあるんじゃないの?」
「あっ、そうだ、あの……俺と結婚してください」
洋介はようやく蓋を開け、指輪を私に差し出した。リサーチの成果か、私の好きなブランドの、好きなデザインの物だった。洋介なりに頑張ってくれたのは伝わってくる。
「全く……順番が逆でしょ。最初にプロポーズしてくれたら、後からレコードを出されても素直に受け取れたのに」
私は指輪に手を出さず、呆れたようにそう言った。
「ごめん。俺って馬鹿だから、いつも真理を困らせるよね……」
もしこれが友達の話だったら、そんな男やめておけって言うと思う。でも、私はシュンとしている洋介を見て可愛いと思ってしまう。こんな洋介だからこそ、傍にいてあげたいと思ってしまうのだ。
「ホント、馬鹿ね……でも、ありがとう。凄く嬉しいよ」
馬鹿は私の方かも知れない。でも馬鹿でも良いや。私は洋介が好きなんだから。
私は箱から指輪を外し、指にはめる。
「綺麗……」
私は左手の薬指の指輪をうっとりと眺めた。
「じゃあ、結婚してくれるんだね」
「うん、これからもずっとよろしくね」
苦労は多いんだろうけど、これからもずっと洋介と一緒に歩いて行こう。まずはレコードでお義父さんと仲良くなろうと思った。
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