第25話 十月二十五日は世界パスタデーの日

 一九九五(平成七)年のこの日、イタリアで世界パスタ会議が開催された。

 EUやイタリアパスタ製造業者連合会などが合同でパスタの販売促進キャンペーンを行っている。


 俺はパスタが大好きだ。パスタを凄いとさえ思っている。

 パスタの何が凄いか? 何と言うかな……懐の深さ。そうパスタは何でも受け入れてくれる器の大きい奴なんだ。

 例えば、ペペロンチーノとカルボナーラ、ミートソースやナポリタン。ソース次第で違う料理と言って良いほど味わいが違う。

 それに、和洋中、どんな国の料理でもソースとして美味しい料理にしてしまう。ついでに言えば、ちゃんと手間暇かけたソースから百円程度のインスタントまで、どんなソースでも受け入れてくれるんだ。

 そんな風に受け身で有りながらも主役は譲らない。大きな存在なんだ、パスタは。


 実は俺には大好物のオリジナルパスタソースがある。簡単に作れてしかも美味しいソースだ。名付けて「ネギ納豆パスタ」だ。

 市販の納豆に刻みネギと卵を混ぜ、パスタの上にかける。麵つゆで味を付けて、仕上げはお好みのふりかけをかけるだけ。簡単かつ美味しいのである。

 納豆は苦手と言わずに、是非お試しを。



 ある週末、彼女が俺の部屋に遊びに来た時のこと。


「お腹が空いたから、お昼に何か作ってよ」


 彼女は俺の部屋に来た時は絶対に料理をしない。わざわざ、人の家に来た時ぐらい料理はしたくないそうだ。まあ、その分後片付けはしてくれるので、俺に不満は無いが。


「何かってパスタで良いか?」

「もちろん。パスタだって分かってたし」


 じゃあ、何かって言わずにパスタって言えよと思ったが言わなかった。

 俺はパスタが好きだが、特にこだわりがある訳じゃない。市販のパスタを茹でて、お皿に取り分けテーブルに座っている彼女の前に置いた。


「ソースは好きなのどうぞ」


 俺は常備している、インスタントのパスタソースが入ったカゴをテーブルに置く。


「あっ、そっちはオリジナルのソースなの?」


 彼女が俺のパスタを見て、少し不満げに言う。


「こっちの方が良いなら作ってやろうか?」

「えっ、良いの? じゃあお願い」


 嬉しそうに言うので、彼女の分も「ネギ納豆パスタ」にしてあげた。


「ネギの緑が綺麗で美味しそう。大豆も入ってヘルシーね」

「ああ、納豆だから美味しいぞ」

「ええっ? これ納豆なの?」

「そう、納豆だよ」

「ええっ……」


 彼女は露骨に嫌そうな表情になる。


「何だよ。作ってくれって言うから作ったのに。文句は食べてから言えよ」


 俺がそう言うと、彼女は何も言い返してこなかった。俺の言葉が正論だったからだろう。

 彼女はパスタを納豆ソースに絡めると思い切って口の中に入れた。きっと鼻で息はしていないと思う。


「あっ……」


 食べた彼女の表情が変わる。


「どうだ、美味しいだろ?」

「ホントだ。意外と美味しい」

「意外は余計だ」


 俺たちは顔を見合わせ笑い合う。


「食べずに嫌な顔してごめんなさい」


 彼女が頭を下げて謝る。彼女のこういう素直なところが俺は好きだ。


「良いってことよ。俺はパスタと同じで器が大きいからな」


 俺は自分の好きなパスタを気に入って貰えて上機嫌だった。

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