第24話 十月二十四日は天女の日

 天女伝説のある自治体が提携して、天女を活かした町おこしを目的として制定。

 天(十)女(二十四)の語呂合わせが由来。



「彼ったら、私のことを天女みたいだって言うのよ」


 弓香(ゆみか)とカフェでお茶してたら、惚気られた。

「彼って誰のこと?」


 弓香は恋愛体質の女の子で、二十四歳になった今も高校時代と変わらず、男を取っ替え引っ替えしている。だから彼と言われても誰のことなのかよく分からないのだ。


「彼ってユウ君のことに決まってるじゃないの」

「誰よユウ君って。私は知らない人よ」

「ええっ、紹介したこと無かったっけ? じゃあ今度会わせるわ」

「会わせていらないわよ。結婚相手が決まったらその時に会わせてちょうだい。紹介して貰っても、すぐ別れるかも知れないしね」

「えー酷いよ、裕子(ゆうこ)ちゃん」


 弓香は悪い子じゃないんだけど、男関係に関しては時々イラっとさせられる。でも正直言えば、その感情は嫉妬なのかも知れない。

 私にも七年付き合っている、雄介(ゆうすけ)という彼氏がいる。でも長すぎる春と言うべきか、最近は会っていてもときめきが無くなってきた。デートもだんだんおざなりになって、休日も雄介のアパートで過ごすことが多い。付き合い始めの頃のように、二人で楽しいことを沢山したいのに。

 もちろん雄介が嫌いになった訳じゃない。ただもう好きで付き合っているのか、惰性で付き合っているのか良く分からなくなっている。

 だから、弓香のキラキラした恋愛話を聞くと正直羨ましい。わたしも天女みたいだと言って欲しい。もっと二人で甘いひと時を過ごしたいのだ。



「弓香が、彼から天女みたいだって言われたんだって」


 土曜の夜、私は雄介のアパートに泊まりに来ていた。私が作ったパスタを食べながら弓香の話をしてみた。甘い恋愛の話を聞いて、雄介がどんな反応するか知りたかったのだ。


「弓香ちゃんの彼ってどの彼氏?」

「いや、それは私も知らないけど、弓香のことだから新しい彼氏だと思う。私が言いたいのはそこじゃなくて、弓香は天女みたいって褒められたんだよ」


 わざとかどうか分からないが、雄介の物言いに、はぐらかされたような気がして腹が立った。


「天女と言えば、静岡県だな。羽衣伝説知ってるだろ?」

「いや、別に天女じゃなくても良いの。天使だって女神だって良いんだけど、弓香は彼氏からそう言って貰ったって話なの」


 ストレートに、私も天女みたいと言って欲しいと言えば良いのだが、それだと言わせたみたいで気持ちが収まらない。あくまで雄介の意思で言って欲しいのだ。


「なにプリプリ怒ってるんだよ。それじゃあ天女じゃなくて般若みたいだよ」

「何だって!」


 一言褒めて欲しかっただけなのに、逆に般若みたいだなんて。 


「もういい!」


 私は怒って、涙目になりながらベッドに飛び込んだ。顔を見られないように、雄介に背中を向けた。

 悔しかった。ただ雄介からの愛情を感じたかっただけなのに。


「ごめん。裕子だって天女みたいに綺麗だよ」

「もういいの」


 雄介がベッドに来て、私を後ろから抱きしめる。


「最近ろくにデートしてなかったのは、お金を貯めてたんだ」


 唐突に話し出した雄介の言葉に驚いて、私は体の向きを変えて向かい合う。


「裕子ってやっぱり結婚式はしたい派?」

「えっ、結婚式って……」


 雄介の口から結婚式との言葉が出てきてまた驚いた。


「俺、まだ働き出して二年目だし、お金があまり無くて……でも俺たち付き合いだしてから長いし、長すぎた春になるのは嫌だと思ってたんだ」

「雄介……」


 私はやっぱり雄介のことが好きだ。だって今、こんなにも心がときめいているから。


「お金だったら私も貯金してるよ。それに式は家族だけの簡単なのでも良いし、写真を撮るだけでも良い。雄介が一緒に居てくれるなら、式なんてどうでも良いよ」

「じゃあ、来週にでもお義父さんとお義母さんに挨拶に行くか」

「うん」


 私はそう返事をして雄介に抱き着いた。


 天女が切っ掛けで、離れかけていた心がまた繋がった。きっと天女様も天の上からもどかしく見ていたんだろう。

 ありがとうございます。天女様。

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