第21話 十月二十一日はあかりの日
日本電気協会・日本電球工業会等が一九八一(昭和五十六)年に制定。
一八七九年のこの日、エジソンが日本・京都産の竹を使って白熱電球を完成させた。
あかりのありがたみを認識する日。
「あっ! 灯りが消えた!」
金曜日の夜、私は親友の依里(より)の家に泊まりに来ていた。依里の両親が今日の夜から帰省することになり、依里一人だと不安だから泊まりに来てくれと頼まれたのだ。
夕飯を食べてお風呂に入り、依里の部屋でおしゃべりしていたら、いきなり灯りが消えてしまった。
「どうしたの? 停電? 依里!」
「凛子(りんこ)ちゃん大丈夫よ。ほら」
依里は全く慌てた様子もなく、用意してあったのか、すぐに懐中電灯を点けてくれた。
天然女子の依里は天然故に、こんな事態でも慌てないのかも知れない。
「あー良かった。用意が良いわね」
「うん、少し前はこうやって灯りが消えるのが、しょっちゅう有ったからね」
「しょっちゅう? 原因は何なの?」
「うーん、良く分からないの。電気屋さんに調べて貰ったけど、どこも悪くないって」
「なにそれ、原因が分からないって……」
その時、どこからともなく「ふふふふふっ」と女性の笑い声が聞こえて来た。
「ちょっと! 今の聞いた? 女の人の笑い声が!」
「うん、灯りが消えた時によく聞こえるんだよね。たぶん、この声の人が灯りを消しているんじゃないかな」
「ええっ! それって幽霊じゃないの?」
「まあ、そうかも知れないけど良いじゃない。懐中電灯の灯りだってあるんだから、さっきの話の続き聞かせてよ」
依里は全然怖がっている様子もなく、いつもと変わらない。
「そんな話している場合じゃないよ。この家は事故物件じゃないの? 昔女の人が惨殺されたとか」
「あのねえ、凛子ちゃん。隣のあなたの家とこの家は新築で、同じ時期に入居したでしょ。事故物件な訳ないじゃない」
「そ、そうか……」
いつも天然な発言をする依里が正論で話してくるので調子が狂う。
「でも幽霊なのは間違いないでしょ。呪われるかもよ」
私がそう言うと、また「ふふふふふっ」と女の人の笑い声が聞こえた。
「ほらあ!」
「凛子ちゃん!」
「は、はい!」
依里が自分の顔に懐中電灯を下から照らし、今までにない大きな声で私の名前を呼ぶ。
「あのねえ、幽霊なんて何も怖くないのよ。人間の方がよっぽど怖いの。だって、幽霊に殺されたって話は聞いたこと無いでしょ? でも人間に殺されたって話は毎日のように有るじゃない」
「そう言う問題じゃないと思うんだけど……」
「幽霊なんて迷惑系ユーチューバーと同じなの。結局相手にして欲しいだけなの。反応したら負けなのよ。実際に相手にしないようにしてたら、出て来なくなってたのよ。今夜は凛子ちゃんが来たから張り切って出て来たんだわ」
下から照らす懐中電灯の灯りの効果か、なんだか正論のように聞こえる。
その時、部屋の灯りが、今度は点いたり消えたりを何度も繰り返す。
「ね? かまってちゃんなのよ」
「なるほどねえ。なんだかそんな気がしてきた」
私がそう言うと、今度はもっと激しく点滅を繰り返す。
「全くもう!」
依里は少し怒ったようにそう言うと、立ち上がって部屋の灯りの元スイッチを切った。その後は灯りは消えたままになった。
「えっ? これで良いの?」
「うん、これで大丈夫。さあ、またお喋りしよう。懐中電灯の灯りも雰囲気あって良いでしょ」
依里がそう言うと、今度は「しくしくしく」と泣いている女の人の声がする。
「泣いてるよ」
「かまったら負けなのよ」
幽霊を恐れぬ依里。天然って最強だと思った。
凛子&依里は「第11話 十月十一日はウィンクの日(オクトーバーウィンク)」でも活躍しています! よろしければ、そちらもどうぞ!
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