第19話 十月十九日はイクメンの日

 「イクメンオブザイヤー実行委員会」が二〇一一年(平成二十三)年に制定。

 「父(十)さん育(一九)児」の語呂合わせから。



 今日はイクメンの日と言うことで、只今イクメン修行中の私が自分の現状を語りたいと思います。


 まずぶっちゃけたことを言いますと、私は息子が生まれてすぐの頃は可愛いとは思えなかったんです。だって妻は十ヶ月間もお腹の中で息子とコミュニケーションを取ってきた訳ですが、私は外から見ているだけでしたから。もちろん、悪阻があったり、お腹が大きくなってきたりは外から見ていて分かるんですが、その時は妻の心配ばかりで、息子がお腹の中で成長しているイメージは無かったですね。


 出産は助産院で立ち会ったんですが、それも感動とは違ったんですよ。助産院さんや義母など、他のみんなはもうベテランなんで落ち着いたものです。妻が苦しんでいても、「こりゃあまだまだ時間が掛かるな」って感じでね。私はもう苦しんでいる妻を見てられなくて、「もうすぐ、すぐ出て来るよ」って適当な励ましを一生懸命続けてました。

 で、苦しんだ末に(妻がですが)ようやく生まれて来てくれた訳ですが、その瞬間「ほら、お父さん、へその緒切って」っていきなりハサミを渡されたんです。全然聞いて無かったんで、もう訳が分からずハサミを持って切ったんですが、その感触。息子が生まれた感動より、あの肉を切った感触の方が印象に残ってしまいました。

 次は私が両手で抱っこして産湯を使ったんですが、可愛いと言うより怖かったですね。本当に小さくて弱々しいんで、落としたらどうしようとかひやひやでしたよ。

 まあ、そんなこんなで、全て終わった後はホッとしたって感想で、父性を感じる暇が無かったんです。


 妻は里帰り出産していたので、出産直後は実家で過ごし、それから自宅に帰って来ました。いよいよ家族三人での生活がスタートです。

 三人で暮らし出してから、徐々に、本当に少しずつ息子が可愛く思えるようになってきました。最初はおむつを替えるのもお風呂に入れるのもおっかなびっくりでしたが、慣れて余裕が出てくると息子の様子も見れるようになって、可愛いと感じるようになってきたのです。

 一番最初に可愛いと思ったのは、母乳を飲み終わった時の顔です。口を固く閉じて目をつぶる。満足しきった顔が可愛かったです。私たち夫婦はその顔を「ワシャもういらんの顔」って呼んでたんですよ。私はその顔が見たくて、いつもおっぱいの時は横で見ていました。


 お風呂の顔も可愛いですね。気持ちよさそうな顔でお湯に浸かります。ある日なんか、湯船に浸かっている最中に「ブオッ」と音がしたかと思うと、黄色い物体がお湯の中にフワッと広がりました。お風呂の中で息子がウンチをしてしまったんですよ。本人は体中ウンチまみれなのに気持ちよさそうな顔してて、大笑いしてしまいました。私もウンチまみれなのに。


 不思議と赤ん坊ってなにをしても汚いって感じないんですよね。それだけ自分の中に父性が育ってきていたからかも知れませんね。


 個人差はあるでしょうが、父親って最初は子供を可愛いとは思えないものなのかも知れない。でもそれで子供と距離を取るのではなく、そんなものだと割り切って無理にでも可愛がり続ければ、きっと心から可愛いと思える日が来ると思いますよ。

 一度そう思えればしめたもの。可愛いからもっと可愛がる。子供は嬉しくて父親に懐き、更に可愛い顔を見せてくれる。凄く良いサイクルが生まれるのです。

 上から目線で偉そうなこと言いましたが、全ての親子が愛し愛され幸せに過ごせるように願っています。

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