第15話 十月十五日はたすけあいの日
全国社会福祉協議会が一九六五(昭和四十)年に制定。
日常生活での助け合いや、地域社会でのボランティア活動を積極的な参加を呼びかける日。
「ねえ、お母さん。なにかこまってることない?」
小学校二年の娘、愛理(あいり)が学校から帰って来るなり、手も洗わずに聞いてくる。
「ほら、先に手洗いとうがいでしょ」
「はあい……」
私が注意すると、愛理は不満そうな顔で洗面所に向かった。
「ねえ、お母さん。なにかこまってることない?」
愛理は洗面所から戻ると同じことを聞いてくる。
「どうしたのよ、いきなりそんなこと聞いてくるなんて」
「あのね、先生が『今日はたすけあいの日だから、困っている人がいたら助けてあげよう』って言ってたの。だから愛理はこまっている人をさがしているんだよ」
なるほど、そういう訳か。今、愛理に助けて貰えるような困っていることなど無い。でも誰かを助けたいって言う愛理の気持ちを考えると無下に断る訳にはいかない。今日はパートが休みだったので家事は済ませている。ゆっくり時間を掛けて、愛理と料理でも作るか。
「あーそうなんだ。そう言えばお母さん疲れていて困っているな。愛理が料理を手伝ってくれたら凄く助かるなー」
私がそう言うと、愛理の瞳がパッと輝く。
「じゃあ愛理が料理をてつだってあげる! お母さんをたすけてあげるよ!」
こうして私は、初めて愛理と料理を作ることとなった。
まず始める前に、私は自分に暗示を掛けることにした。
愛理は私を助けてくれること。これは絶対に忘れちゃいけない。たぶん今から始める料理はいつもより時間が掛かり、私にとって大変な作業になるだろう。でも愛理には常に笑顔で感謝を伝えよう。愛理に人を助けるのは達成感のある楽しいことだと教えないと。
「よし、じゃあ始めようか」
「うん!」
私は自己暗示を終え、作り始めることにした。
料理を始めたが、愛理にギリギリ出来そうなことを考えるのが難しい。様子をみながら、少しずつ役割を与える。
危険なので包丁は持たせたくは無いが、ここは勇気を持って挑戦させる。横に付いていて、いつでも止めれるように注意しながら。
上手く出来た時は満面の笑みで「ありがとう! 助かるわ!」とお礼を言う。その時に見せる愛理の誇らしげな顔は、私の普段の疲れまで吹き飛ばしてくれた。案外本当に助けて貰っているのかも知れない。
「出来た!」
悪戦苦闘の末に、料理が完成した時には二人して顔を見合わせて声を上げた。
「ありがとう愛理。お母さん、本当に助けて貰ったわ」
「つかれてたの、だいじょうぶになった?」
愛理が少し心配そうな顔で訊ねてくる。
「うん、疲れなんか吹っ飛んだよ」
「よかった!」
愛理は笑顔になった。どうやら達成感を与えてあげられたみたいだ。
時間が掛かったので、もうすぐ夫が帰ってくる。駅から連絡があった時に事情を話しておいたので、上手く愛理を褒めてくれると良いが。
「ただいま!」
「おかえりー!」
夫が帰って来ると、真っ先に愛理が出迎えた。
「美味しそうなご飯だな」
夫はテーブルに着くと嬉しそうにそう言った。
「今日は愛理がお母さんを助けて、料理をつくったんだよ!」
「そうか、偉いな愛理」
夫に褒められて嬉しそうな愛理。
「いただきます!」
三人で手を合わせて食べ出す。
「凄く美味しい! 愛理は料理が上手だな!」
ちょっと芝居がかり過ぎて吹き出しそうになったが、愛理は嬉しそうだった。
こんなに幸せな気持ちになれるなんて、今日は本当に良い一日になった。愛理に助けて貰った一日だ。
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