第166話 立ち上がる者たち

「ちっ!? 私の戦場をけがすなど!」

「どうしてこっちの援護に……?」


 上空に集う、六人の戦士。

 しかし援軍の存在を受けて戦力の拮抗が取り戻されたということは、下に残っている連中が無防備になることを意味している。


 人々の保護と施設防衛戦。

 それらを投げ捨ててまで最前線に出て来る様な二人ではないはずだが――。


「それは烈火が一人で無茶をしているからだ」

「ふん……そもそも他人に指図されるいわれはねぇからな」


 だが横目を向けた瞬間、二人からの強烈なジト目が突き刺さる。顔が整っているだけあって、やっぱり凄い迫力だ。


「それに“竜騎兵彼ら”と戦うのは、私たちの役目だ。下はを信じて任せるしかない」

「みんなって……」


 更に雪那に促されて視線を向ければ、眼下の地獄絵図が様変わりし始めている光景が飛び込んで来た。


「本来一般人の保護は我らの管轄外だが、これでは致し方ない。各員、防衛に徹しながら、戦線を押し上げてくれ! 無理に敵を倒す必要はない! 人口密集地から引き離し、騎士団の到着まで持ち堪えろ!」

「了解ッ!」


 鳳城先生を先頭にした教員部隊が、“魔導兵装アルミュール”を起動。

 さっきまでの雪那や萌神と入れ替わるように戦闘行動に入っていた。


「有視界域の敵を一掃します!」


 金色の髪が舞い、見覚えのある女性教師が突出。

 “テンペスタ・ルーチェ”を纏った状態で大型ガトリングをぶっ放し始めた。髪色通りの魔力光が連続で瞬き、飛竜と甲冑蟷螂カマキリをいとも容易く蜂の巣へと変えていく。


「アレは……」


 それもあのガトリングは、以前俺がテストした武装と酷似している。

 つまりヴィクトリアさんが使っているルーチェは、零華さんが手を加えたカスタム機。繋ぎ・・なのか、魔改造品なのかは知らないが、出力だけなら普通の学生が持つ固有ワンオフ機を上回っている。

 そうでもなければ、あんな大型ガトリング四基を自在に振り回せるわけもないし、そもそも量産型の貸出機に実戦用の武装が複数搭載されているわけもない。

 零華さんもヴィクトリアさんも、俺の知らないところで色々動いていたわけだ。


「ちぃっ!? あの女ども!」

「なるほど、打開の可能性が出て来たからすっ飛んできたってことか!」


 そういえばコイツは、学園対抗戦で鳳城先生やヴィクトリアさんとも戦っていた――と思い出しながら、再び白刃で螺旋槍を受け止める。

 そしてもう孤軍奮闘する必要はない。


「あの時の決着を……!」

「望むところ!」


 桜色の砲身が迫り出し、吹き出した白銀の冷気が天を彩る。


「私を前に退かぬとは……ならば、容赦はしない!」

「はぁ……そういう暑っ苦しいのは嫌いなんだけどなァ!」


 戦斧の柄が鎖となって飛翔し、連続射出される水流刃と激突。互いに動き回る中で鈍い破裂音を奏で始める。

 いや、それだけじゃない。


「私とシュトローム先生で大型を潰す! お前たちは、打ち漏らした雑兵ぞうひょうを……!」

「り、了解!」

「せっかくの休み……じゃなくて遠足だったのによォ!」


 風破に伊佐、固有ワンオフ機持ちの生徒も教師の補助に入っていた。確かに数では連中に劣るが、戦力の質という意味ではかなりマシになった。

 それに“サルベージ”の三人も固有ワンオフ機を持っているらしく、なし崩し的ではあるが、肩を並べて戦っているようだ。


 呉越同舟ごえつどうしゅう

 倒すべき敵が同じである以上、力を合わせて戦うことが最適解だと判断した結果だった。

 まあ根本だけは半泣きでヒステリーを起こしているが、そもそも最初から戦力として数えていないとあって問題なし。こちらの方針変わりはない。


「ともかく今は……」

「ああ、私たちが此処ここを制すれば……」

「このお祭り騒ぎも多少はマシになるってことだ!」


 敵の最大戦力である“竜騎兵ドラグーン”を打倒するのみ。

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