第165話 全面戦争

 狂気を感じさせる笑み。

 刺々しい意匠。

 渦を巻く螺旋槍。


 今目の前に広がる光景には、あまりにも心当たりがあり過ぎる。


「お前は!?」

「大して久しくもないが、えて言わせてもらおう! 久しぶりだな……と、なァ!!」


 フリューゲルの推進力で強引に耐えながら白刃を振り抜き、弾かれる様に距離を開かせる。

 しかしたった今、新たな特異点から飛び出して来たらしい“竜騎兵ドラグーン”――ジル・ハインバッハは、一切怯むことはない。螺旋槍に紫紺を纏わせたかと思えば、すぐさま突進してきている。


「何の目的で、こんな……!?」

「そんなことはどうでもいい! 以前の借りを返させてもらおうか!」

「会話になってないぞ!」


 白刃と螺旋槍が再び火花を散らす。

 激突の反動で周囲の“異次元獣ディメンズビースト”が吹き飛んでいく。


「テーマパークに遊びに来たいのなら、その物騒な武器をしまってくれると嬉しいわけだが!?」

「私が求めるのは、狂乱の宴! 我が愉悦を満たすことの前では、“偽りの世界”の事情など些末なものよ!」

「また、ソレ・・かッ!」


 高速機動からの一撃離脱。

 主兵装や細かい機体特性は違えど、俺と奴の戦闘スタイルには共通する部分が多い。よって、多角的に空中を飛び回り、何度も切り結び合う。


 しかしコイツの動きには、迷いがない――というか、あまりにも迷いがなさ過ぎる。

 筋金入りの戦闘狂と称するべきなのか。

 それとも敵を蹂躙することを愉しんでいるのか。

 恐らくは後者だな。


「敵、殲滅……」

「上から!?」


 そうして敵の集中砲火に晒されながら“竜騎兵ドラグーン”と切り結ぶ最中、今度は桜色の魔力弾が雨のように降り注いでくる。


「ネレア!? 貴様、私の戦いに横やりを入れるつもりか!?」

「相手は要注意、特記戦力。一人ではキケン」


 破壊の雨を降らせるのは、見覚えのあるシルエットをした小柄な少女――ネレア・アーレスト。

 かつて学園を襲撃した“竜騎兵ドラグーン”の一人。


「“スターブルーム”……」

「ちぃっ!? “ニードルバスター”――ッ!!」


 だが息つく暇もなく、視界を一掃せんばかりの魔力弾が放たれる。

 更に苦々しそうな表情を浮かべたジルまでも、螺旋槍からドリルのように高速回転する魔力弾を高速で放ってきていた。


「“ネメシスフルバースト”――!」


 双剣抜刀からの剣群射出。


 ジルの主戦域である近距離クロスレンジ

 ネレアの主戦域である遠距離ロングレンジ


 そのどちらにも踏み込まず、付かず離れずの距離を保った上で、フリューゲルの機動力を活かして迫り来る破壊の嵐をさばいいていく。

 ひとまずはこれで――。


「借りという意味なら、私にもあるのだがな!」

「千客万来……だな、全く!」


 少しばかりの安心も束の間。俺は直上から迫る銀色の刃を左の白刃で受け止める。

 半目で見れば、そこにいるのはクロード・ガルツァ。

 俺にとっては、初めて刃を交えた“竜騎兵ドラグーン”。


「貴様、全体指揮は!?」

「そもそも勝手に押し付けて独断で動き回っていたのは、どこの誰だったかな?」

「二人とも、邪魔……」


 螺旋槍が金切り声を上げる。

 戦斧の刃が翻され、鎖の檻が迫って来る。

 そして全方位から、破壊の号砲が炸裂する。


「やるしかない……か!」


 両手の剣。

 出力を引き上げた双翼。

 膝部分に魔力を纏わせた足刀。


 全身の武装を用いてどうにか事なきを得ているが、均衡が崩れるのは時間の問題だろう。


「三人がかりなど……こんな無様な闘い!」

「これは決闘ではない。貴様の愉しみなど二の次だ」

「狙いをつけるの、面倒くさい。全員に当てて良い?」


 協調性を欠片も感じさせない割には、理に適った連携――というより、個々の能力が高すぎる結果、凄まじい脅威と化している。

 更にネレアはバインダーを稼働させ、かつて学園のアリーナシールドを軽々とぶち抜いた四連砲撃の発射体制へと入っていた。


 眼下には逃げ惑う人々がいる。回避という選択肢が消失している以上、こちらが取るべき対策は一つだ。

 使うしかない。

 煉獄の黒炎と限界を超えた力を――。


「この、ムカつく感じ……」


 だが混沌を極めつつあった戦場に氷槍が飛来し、ネレアの撃ち気を鈍らせた。


「むっ!?」


 その上、続け様にクロードが戦斧を翻せば、今度は奴の刀身が悲鳴を上げる。原因となったのは、鋭利な水流刃。


「どうやら人探しどころではないらしい」

「まぁ、これで三対三だ。スポーツマンシップに則って、フェアに殺ろうぜ」


 わざと遠ざけたはずの頼もしい援軍が来てくれたようだが、これで全面戦争は必至だな。

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