第153話 力と責任
ミツルギ学園、二年Aクラス。
教室内には、新年度特有の浮ついた雰囲気が充満していた。
実際問題、あれだけイレギュラーな年度末試験を乗り越えた果ての現状だし、進級したことにテンションが上がるのも無理もない。
だからこそ、それを許してくれない教師がクラスの担任になったわけで――。
「さて、諸君らはめでたく進級したわけだが……今後は昨年とは比較にならない実戦的な魔導を身に付けてもらうことになる。故に昨年度までの成績を考慮して、
壇上に立つ鳳城先生の言葉で、教室内の空気が一変する。
これからの日々への怯え。
カリスマ美人教師への憧れ。
自分たちの一年間を否定されたと言わんばかりの怒りや憤り。
個々それぞれ面白いくらい違う表情を浮かべていることもあり、端から見ている分には愉快さと哀愁を禁じ得ない。
だがこればかりは、鳳城先生の言葉があまりにも正論過ぎる。
「諸君らにとっても、学園対抗戦は記憶に新しい出来事であるはずだ。自分たちがどういう醜態を晒したのかについても……」
「……っ!」
雪那の一勝と風破の無効試合以外は、全戦全敗。
当然、生徒も一〇代半ばの若者だけあって、ネット上でミツルギが大バッシングされていたことも既知の事実。
更には学園残留を懸けた年度末試験まで体験している。
つまり、その全てが現状打破に向けての方針転換であることは、どんな馬鹿でも必然的に理解出来てしまうわけだ。
そうした方針の変化もあって、鳳城先生は今までなら口に出来なかった厳しい言葉を投げかけて来ているのだろう。
奇しくも、かつて彩城少将が俺にかけたのと同一の言葉を――。
「過程を
その直後、一部の生徒は、ばつが悪そうに視線を逸らす。
狸婆が示した方針によって、既に学園と保護者会の立場は逆転している。だからこそ、圧力をかけて進路を
これまでの日々でグレーなところがあったのか。
対抗戦で野次を飛ばしていた当人なのか。
ともかく、内心やましい考えを持っていたのは確かだろう。
ただ今後の成果にのみ重きを置くという先生の方針は、直接不正を追及するよりも酷でえげつないものだった。
実際、これまでの所業を知った上で見逃すと宣言された事実は、該当生徒にとって救いという名の十字架と化してしまう。
なぜなら、過去を見逃してもらえる反面、これからは正当な形で確かな結果を出さなければ、即落ちぶれるぞ――と、言外に訴えかけているも同じだからだ。
それ自体は当然と言えば当然の話ではあるが、若き魔導実技最高責任者が直々に退路を断ちにきたと考えれば、連中の心中に宿るのは純然たる恐怖と重圧。
仮にも皇国トップエリートであるミツルギ生が黙りこくるところは新顔から見ても驚愕物だろうし、余程のバカでもなければ、もう先生に逆らおうなんて奴は出てこないはずだ。
端的に言えば、既にこのクラスで腐ることが許されなくなったということ。
「大きな
何より、当の本人の穏やかな声音が一番怖い。
この様子じゃ、今まで見たいなサボりなんて夢のまた夢だな。
当然、俺も周りの連中とは別のベクトルで目を付けられているだろうし。
とはいえ、今からは行われるのは、このメンバーで初めて魔導と触れ合う授業だ。
見るからにキャラの濃い連中が集まってしまったが――何も起こらないことを祈るばかりだな。
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