第152話 鮮烈な日々

 始業式も終わり、今日は初日とあって説明会という名目の半日授業のみ。

 ヴィクトリアさんに関しても、新任であることを考慮されて特段残業もないらしい。

 よって、三人揃っての下校となったわけだが――。


「あら、おかえりなさい! 今日は早いお帰りでしたね」

「一応、まだ初日だからな」


 玄関の扉を開けば、エプロンを付けた銀髪美少女に出迎えられる。


 ディオネ・フォルセティ。

 今も以前も不法侵入者であり、研究所の一件では肩を並べて戦った少女。

 雪那とは別ベクトルと称せる腐れ縁。


 そして家の中に特異点を開いて現れた――恐らく、“竜騎兵ドラグーン”。


「私たちもいるのだが?」

「あら、気付きませんでしたわ。いつの間にか烈火の家に住み着いていた泥棒猫さん」

「ふん、目敏めざとい女狐に言われたくはないな」

「あはは……」


 何の目的で現れたのかは未だ聞き出せずじまいだが、当の本人は雪那とガンを飛ばし合いながら物騒にじゃれ付いている。

 この時ばかりは、普段と違ってヴィクトリアさんが大人っぽく見えるというか、二人が幼くなっているというか。

 ともかくディオネが襲来してたった二日だというのに、すっかり馴染んでしまっていることだけは確かだった。


 ちなみに今のところ、ディオネの所在を通報するつもりはない。

 理由は二つ。


 一つ目は、こんな人口密集地で“竜騎兵ドラグーン”と戦闘をするわけにはいかないということ。

 二つ目は、せっかくの手掛かりであるディオネとの関係が険悪なものになってしまいかねないから。


 何より、“竜騎兵ドラグーン”が最大の敵なのは事実だが、それは向こうから撃ってくる場合に限った話だ。

 人間にだって会話の通じない奴はいるし、“竜騎兵ドラグーン”も一枚岩ではない。

 だからこそ、何らかの形で対話の卓につく必要があるはず。

 そう遠くない未来、間違いなくディオネの思惑について問い正すつもりではいるが、今はまだ互いの距離を測りかねているというところだろう。

 刃を向けるべき相手を見誤ってはいけない。少なくとも、今はそれだけがただ一つ確かなこと。


 まあそんな経緯もあり、結果的にまた同居人が増えた。

 元々部屋も余っていたし、互いに居候であるヴィクトリアさんとの関係も良好。急な話だったが、特に問題はない。強いて言うなら、目のやり場に困る機会が更に増えたくらいか。


「うふふ……」

「ふん……」


 いや、睨み合いという名のじゃれ合いに時折、肝が冷えることがあるのも大きな変化なのかもしれない。

 言葉にするのは難しいが、前までどこか遠慮しながら反発していた雪那が堂々と正面から対抗するようになったというか。

 とはいえ、あの頃は一柳の件で苦しんでいたんだろうし、良い意味で心境の変化があったのなら喜ぶべきなのかもしれないが――。


「ほ、ほら! もうお昼だし、お腹減っちゃったなぁー!」

「そうですわね。私としたことがはしたない。では参りましょう」

「烈火の腕を取って歩くな! 全く……!」

「いや、三人横並びは流石に狭……」

「えいっ!」

「居場所がないからって、後ろから抱き着かれるのも困るんですけどね」


 新たな学年。

 新たな環境。

 そして新たな同居人。


 新生活の始まりに際して、日常に大きな変化があったことは事実。

 それを良い変化に出来るかは、自分次第だな。


 何にせよ、退屈しない日々が鮮烈さを増したことだけは確かだった。

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