第154話 魔導ハイスクールライフ

 ミツルギ学園・第三アリーナ。


 今現在、約三〇人の生徒が五名程度のグループに分かれ、ひたすら魔力弾を撃ち放っている。

 狙うのは、前方の各所に自動で出現して消えていくターゲットマーカー。

 端的に表すのなら、近未来的な射的ゲームといったところか。


 とはいえ、飛び交うのが魔力弾とあって、祭りの射的と比べれば物騒極まりない。

 しかし生徒からすれば、授業という名目でプレイできるアクションゲームの様なものであり、誰もが楽しみながらスコアを競い合っている。

 当然、それは俺たちも例外ではなく――。


「あちゃー、一発外しちゃったか!」

「でも他は全部当たってるんだから凄いよ。私なんて参加するまでもなく戦力外だし……」

「あはは、朔乃はちょっと特殊だからしょうがないんじゃない?」

「うむ、ここまで長所と短所が極端に分かれているのだから、割り切るしかないだろう。それもまた、一つの稀少性なのだからな」

「そう言われるのは嬉しいけど、全弾ド真ん中に当てて帰って来た人に言われてもなぁ……」

「神宮寺さんも特殊なんだからしょうがないって。こっちは凄過ぎって意味だけど……」


 朔乃、風破、雪那。

 すっかりお馴染みとなりつつあるメンバーが周りに集っている中、攻撃出来ない朔乃を除けば結果は上々。ようやくの穏やかな日常というか、魔導ハイスクールライフを満喫出来ている。

 ただ次が俺の番である一方、誰もがこの春休みを経て大きく変わった事象に目を奪われていた。


「それにいきなり神宮寺さんみたいに機体を振り回せるわけないよ。とりあえず、馬子にも衣裳状態になってないなら最低限って感じかな」


 その最たるものは、深緑色で武骨な戦闘装束から一転、風破の出で立ちが翡翠の鮮やかな衣装に変化していること。

 同時に携えられている武装も“深緑の拳銃ハーミット”から大柄なスナイパーライフルへと変化している。

 学園の貸出機を模様替えのようにカスタム出来るわけもないし、示される答えは一つだけ。


「まあ同じ・・固有ワンオフ機とは言っても、性能はピンからキリ。それに風破自身のデータ蓄積や使用練度も不足しているはずだ」

「確かに武装も見るからに未完成という感じだからな」

「流石に二人には見抜かれちゃうか。この“アルテミス”が試作の前段階ってことは……」


 固有魔導兵装ワンオフアルミュール――“アルテミス”。

 “二矢重工にやじゅうこう”なる企業と契約したことで、風破が手にした新たな機体。

 主兵装が示す通り、中・遠距離での戦闘に主眼を置いているとのことだ。

 加えて、零華さん作の“濃霧の長銃ミスト・クローフィー”と同じアプローチで、戦闘スタイルを開拓しようとしていることは確からしい。


 片手間に生み出した武装が真に迫っていた零華さんが凄いのか、同じ発想に至った契約会社のスタッフが凄いのか。

 ともかく試験の場で可変長銃を使いこなした風破にとって、相性の良い機体に仕上がることは間違いないだろう。

 正しく適材適所。

 風破をテスターに選出したことは、企業にとって悪くない選択になるはず。

 この間の一件もあって色々気に掛かってはいたが、空元気でも何でも風破は前に進み始めている。完全に無用な心配だったようだ。


 そういう意味では、結果的に良い方に転んだ春休みだったのかもしれないが、一方で何も変わらない奴もいるらしい。


「物騒だな。どうにも……」


 動こうとした雪那を制しながら白刃を奔らせる。


「……っ!?」


 二手ほど遅れて朔乃と風破が目を剥く中、叩き落す形で四散させたのは一発の魔力弾。

 この授業が正面への的当てである以上、友軍誤射フレンドリーファイアは起こり得るはずがない。

 つまり余程のノーコンか、それとも――。

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