第136話 魔導の有無

 数分後。

 ダンマリを決め込む連中に対して手荒な手段もやむ無し――と思い始めていた頃。


「さっきから! 俺たちを見下ろすなァ!!」


 大学生くらいだろうか。

 俺たちより少し年上に見える青年は、叫びながらこっちに突っ込んで来る。

 コートのポケットから取り出した、サバイバルナイフと黒光りする拳銃を手に――。


「実弾兵器。デジャヴだな」

「ちっ、やっぱり・・・・か。わざわざついて来た甲斐があったみてぇだな」


 萌神の言葉も気になるところだが、今は目の前の対処を優先しなければならない。


「うおおおおおぉぉっっ!!!!!!」


 とはいえ、今更こんな奴が向かってきたところで脅威になるはずがない。現に動きも隙だらけだし、持ち慣れていない武器の重みで両手が垂れ下がってしまっている。

 それこそ初等部ガキの頃の俺でも、片手で捻れるレベルだ。“魔導兵装アルミュール”どころか、魔導を使う必要もない。


「天月……?」

「俺が行こう。相手を殺されるのは流石に困るしな」

「おい……」


 背後からじっとりした視線を感じながら、一歩前に出る。

 そして大きなナイフを素手で掴み取った後、そのまま刀身を握り潰す。


「な……ァっ!?」


 柄から手を放し、青年はガクガクと音が聞こえてきそうな勢いで全身を震わせている。

 まあ目の間で刃物を握り潰されたのだから、当然の反応だろう。薄い魔力を掌に魔力を巡らせていることにも気付いていないだろうしな。

 だがこれが魔導資質・・・・の有無・・・という絶対的な差。


「このっ!? 化け物ッ!? 化け物めェ……ッ!!!!」


 奴は散漫な動きで発砲して来るが、重心がブレブレ過ぎて敵ながら頼りない。

 薄い魔力障壁プロテクションで防御すれば、潰れて平たくなった弾が足元を転がっていく。


「つい最近、聞いたような口ぶりだな。全く、どん詰まりの世界で人間同士の内輪揉めとは……」

「ぁああっ!? ああァあ……ッ!?」


 そして拳銃を握り潰して鎮圧完了。

 青年は絶望しながら崩れ落ちる。


「ひ、ぅっ!?」


 更にひしゃげた拳銃を目の前に放り投げれば、他の連中は動きを硬直させてしまう。


「いい加減ウゼェから、こっちが聞くことだけに答えろ。口答えした奴からドタマぶち抜くぞー」

「あ、ぁぁっ!?」

「とりあえず武装解除だ。全員武器を自分の前に置け。三秒以内にやらねぇと、即ぶち殺す」


 直後、青年の拳銃が連中の目の前で砕け散った。

 全ては萌神の指先から射出された細い水流弾が原因であり、威力が最小まで抑えられていることは言うまでもない。

 でも脅しには十分だったようで、連中は私服に隠していた武器の数々を黙って地面に置いていく。


 拳銃、サイレンサー、手榴弾、ナイフに小刀。


 とても一般市民が持っていい物じゃないし、私服姿の連中と見比べるとアンバランス極まりない。

 日常生活の中で一体何と戦っているのか――と、呆れてしまう装備の数々だ。

 いや何と戦うのかについては明白か。


「ちっ、素人が……!」


 反抗の意志をへし折るかのように、威力が抑えられた水流弾が次々と着弾。連中の武器が粉砕されていく。

 魔導社会に適応できた者とそうでない者。

 別に力を誇示するつもりはないが、脅威との戦いのために魔導騎士が優遇される理由は明白だろう。


 とはいえ、連中のお気持ち表明に付き合うつもりはない。

 いい加減、その正体とやらを見極めるべきだな。

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