第137話 神の教え
「んで、テメェらはなんで人の尻をつけ回してたんだ?」
「そ、れは……」
戦意喪失。
座り込んで震えている連中は、下を向いて黙ってしまう。まるで
「“
「ど、どうしてそれ……はっ!?」
慌てて発言を訂正しようとしているものの、最早手遅れ。
ビンゴと言いたいところだが、果たして
まず単純に同じブランドが流行っているという可能性は、排除していい。
全員が他人であり、偶然集ったという可能性も同様。
「どう見ても、普通の社員じゃないか」
「だろうな。アタシもその花の十字架には見覚えがある。悪い方の意味でな」
「ひぃっ!?」
最初の可能性としては、東雲をトップとする“
だが今俺たちが話している通り、それよりも有力な答えに辿り着きつつあった。
「地下組織……いや、思想家に付き従う
「まあ自称だろうけどな」
「わ、私たちの教義を馬鹿にするつもり!?」
「そうだ、俗世に塗れた化け物めッ!」
「やっぱり
「訂正しろ!」
「訂正しなさいよ!」
自分の考えを一蹴されたことを
教義という言葉。
そして社会と魔導を敵視していること。
これらを総括すれば、必然的に連中の正体と行動理由が見えて来る。
「社会的弱者への洗脳とマインドコントロール」
「そんな連中を集めて形成された集団ってことは……」
「危険な思想に傾倒した過激派団体。いや、“
光があれば影がある。
例えどんなに素晴らしい事象だとしても、得をする者と割を食う者が出て来てしまうことは事実だ。
テストや徒競走で一位と最下位が決まってしまうように――。
人生の成功者と失敗者が明確に分かれてしまうように――。
だがそれは、魔導至上主義だけが原因じゃない。
生きるということは、誰かと競争するということでもあるのだから。
とはいえ、やはり成功と失敗の分かりやすい基準に“魔導”という要因が深くかかわってくるのが現状の社会だ。
実際、俺たちが武装した大人数を片手間に鎮圧出来てしまったことが、全てを物語っているはず。
「ふざけるな! お前たちのような学びのない人生と違って、私たちの毎日には神から与えられた温かさがある!」
「そうよ! 私たちは神に選ばれた人間なんだから……!」
「なるほど、
俺や朔乃が魔導の実力という一点で評価を変えつつあるということは、逆もまた然り。
つまり、どんなに素行が良くて勉強の出来る優等生であっても、魔導資質という一点で劣等生に成り下がってしまうことが往々にして存在するわけだ。
そうなれば、魔導資質が低く世界から見放された連中は、潜在的な劣等感や怒りに苛まれていく。
魔導が使えないと認められない。
だが後天的に鍛えてどうにかなるレベルでもない。
そんな連中に対し、魔導が使えない人間こそが至高の存在。
魔導を使えなくてもいいんだよ――と、刷り込んだ結果、社会に恨みを持つモンスターが誕生したわけだ。
「……ちっ、
「ああ、ここまでだな」
一方、集会場やら何やらを可能な限り聞き出している最中、誰かが通報したらしい警察の接近を感じ取り、俺たちは連中を気絶させてその場を立ち去った。
まあ、あれだけ銃声が響いていれば当然か。
一番大切な情報は得た。今はそれで良しとしておこう。
「“
「
「恨んでいるのは国か、社会か。それとも世界そのものなのか。歯止めが効かなくなる前に何らかの手を打たないとだが……」
「確かに……あの様子じゃ、いずれ街ン中でぶっ放してもおかしくねぇわな」
今更思い出した話ではあるが、根本親子と揉めた際に現れた謎の集団。
連中の仮面に記されていた紋様は、例のアクセサリーと同じものだった。
加えて、暗示や薬品を用いた強引な洗脳により、もし記憶が混濁しているとすればどうだろうか。
いくら神宮寺や警察組織であろうとも、壊れた記憶を引っ張り出すことはできない。捕らえた連中から、未だに証言が得られていないことにも説明が付く。
東雲がどの程度の立場なのかは分からないが、風破の家庭問題から波及したこの一件には、俺の想像以上に根深い要因が複雑に絡み合っているらしい。
ともかく一つだけ確かなのは、真っ先に標的にされそうな雪那を連れ歩かなくて良かったことだけだな。
まあ単体で対処するとしても過剰戦力ではあるが――。
しかし連中の言う集会までは、しばらく日数がある。
日も沈みそうだし、今日はここまでだな。
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