第129話 パジャマパーティー

 帰って来た天月家ウチのリビング。

 だがとても自分の家とは思えないほどに落ち着かないのが現状だった。


 朔乃とキサラギ先輩を送り届け、零華さんがパーティーに加入。

 まあここまではいいだろう。


「えっと……」


 事情説明のために風破が過去を語り、一度内容を聞いている俺以外が思い思いの表情を浮かべるのも当然のことだ。


 ただどうして、ウチのリビングを使ってのパジャマパーティーと化しているのだろうか。

 俺以外の全員が風呂上りな所為せいでシャンプーの香りも漂って来るし、まだ火照ほてっているように見える。

 しかも同級生から大人のお姉さんまで勢揃いだ。

 流石の俺でも居心地が悪いと言わざるを得ない。というか、目のやり場が無さ過ぎる。

 でも話題的に周りはシリアス一直線だし、凄まじいギャップで頭が痛くなって来たな。


「まあ、そんなこんなで私の過去編終わりー! って、感じなんだけど……」


 そうして風破がひとしきり話を終えた後、雪那たちの反応は三者三様。

 でも当人以外、空気を読まず茶化すような言動がないことだけは共通していた。


「つらかったねぇ……!」


 ヴィクトリアさんはハンカチを片手に半泣き。


「なるほど、それは動揺して当然と言うべきか……」

「嫌な因縁もあるものね」


 雪那と零華さんは、普段と大して変わらないように見える。

 だがその雰囲気はどこか刺々しく、風破を振り回す大人たちへの怒りがはっきりと感じられた。

 それに関しては俺も同様ではあるが、今回の一件については顔が売れだした弊害ということになるのだろう。随分と勝手な話だが、学園に問い合わせたらしいし、間違いはないはず。


 一方、風破が語った内容には、俺の知り得ないことも含まれていた。


 あの東雲とかいうオッサンが最初の父親であること。

 風破という今の苗字が、証人保護プログラムを適用された末の仮初だということ。


 東雲アリア。

 それが風破の本当の名前。


 別に今更、風破への見方が変わるわけもないし、そんな人間はこの場に一人もいない。でも少なからず驚いたことは事実なわけで、多少なりとも触れざるを得ない。


「それで、あの男は何なんだ? どうして研究所に?」

「うーん、業務提携をお願いしに来たセールスって感じかしら?」

「有名なのか?」

「さあ?」


 零華さんが肩を竦める。


 あの男の名前は、東雲遼琉しののめとおる

 “KEINERAGEカイナエイジ”とかいう会社の代表取締役らしい。


 結婚してもお遊び三昧。

 W不倫からの子供を見捨てて逃げたということで、チャラチャラしたDQNっぽい印象を受けたが、人生何があるか分からないな。

 まあ従業員が一人だろうが、一〇〇人だろうが、社長になるだけなら誰でも出来る。調べてみた感じ、このデジタル全盛の時代にホームページもまともに無いようなマイナー企業らしいし、警戒して然るべきだろう。


 人間の飽く無き欲望と悪意。

 実際、奴の眼差しには、そんな人間らしく浅ましい光が宿っていた。

 アレは捨てた娘に対しての罪悪感を抱いている人間の瞳じゃない。


 それと同時、俺は奴の眼差しに既視感を覚えていた。

 なぜなら両親が死んだ時、遺産を狙って近づいて来た親戚と同じ光を宿していたから。

 もしも零華さんがいてくれなければ、今頃はホームレスか裏社会か。それとも自棄やけになって野垂れ死んでいたのか。

 少なくとも、第二研究所で祝勝会をするような未来に辿り着けなかったことだけは確か。


 だからこそ、分かる。

 あの男は風破の将来性を利用するために接触して来るだろうし、アレで諦めるはずがないと――。


 他人の家庭内問題と言ってしまえばそれまでだが、さてどう関わっていくべきか。

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