第123話 反撃の狼煙【side:月谷朔乃】

 ◆ ◇ ◆



 ミツルギ学園メインアリーナ・バトルフィールド――。



 既に第五試合の幕は下ろされており、今も色とりどりの魔力弾が飛び交っている。

 ただ学園違いが混じっていても、所詮しょせんは一年のカリキュラムを終えた者同士の戦い。

 使用可能魔導の少なさもあり、さっき見たような展開が頻発ひんぱつする形で戦況が進んでいく。


 そんな中、突出しているのは――。


「ほらほらっ! 邪魔だァ!!」


 土守陸夜は魔弾を周囲に滞空させながら高速刺突を繰り出し、次々と生徒に襲い掛かっていく。


「この……雑魚共がァ!!」

「ぐぎっ!?」


 細剣レイピアを手に腹部を突く。

 射出・装弾を繰り返しながら、滞空中の魔弾を放ち続ける。

 それは宛ら、魔弾の嵐。


 陸夜にとって、今年一年の集大成とでも称するべき戦闘スタイルだ。


「僕の道を……阻むんじゃないッ!!」

「く、くそォっ!? ぐああぁぁっ!?!?」


 かつての決闘騒動から僅か二ヵ月と少し。

 天月烈火を想定した激しい訓練の成果が存分に発揮されており、普通の同年代と比べても、確実に非凡な力だと称せるだろう。

 ただ当の烈火や“竜騎兵ドラグーン”クラスには、全く通用しない程度というだけで――。


「次はお前だァァっ!!」

「うぉっ、スゲェ顔っ!?」


 アリーナの左端で細剣レイピアと長槍がぶつかり合う。

 陸夜の非凡な一撃を受け止めたのは、アキビメ学園・一年生、伊佐涼斗いさすずと

 固有ワンオフ機――“飛電ひでん”を駆り、陸夜と相対していく。


「黙れェッッ!!!!」

「これがミツルギの固有ワンオフ機持ちか!? 楽しくなって来たぜ!」


 斬撃魔導が交錯。

 周囲を巻き込む形で飛び回りながら切り結び、事実上この戦場を支配してしまう。


 試合開始から一五分。

 結果、二人がフィールド内を暴れ回っていることにより、既に残存生徒は六人を切るまでに至っていた。

 単純に二人の実力が頭一つ抜けていることもあるが、それは流れ弾や進路確保のために辺りの生徒を次々と撃墜してしまったが故の事象。

 アリアと京子の例外こそあれ、やはり固有ワンオフ機持ちに選ばれる生徒とそうでない者には、明確な差があるわけだ。


 そして当の固有ワンオフ機持ち二人を除けば、実質的に残りは四人。

 激しい戦闘に巻き込まれないよう、それぞれ端の方で一対一の地上戦を繰り広げている。


「土守さんたちに好き放題された所為せいで、見てるだけになっちまったかと思ったが……残ってる三人をぶちのめせば、ちっとは見栄えもマシになるだろ! なァ、ゴミ女!!」

「く……っ!?」


 月谷朔乃と相対するのは、新見悟郎にいみごろう

 かつて校門前の騒動において、朔乃に魔導を放った陸夜の取り巻きの一人。

 ただ両者共に貸出機の“陽炎”を纏ってぶつかり合っている一方、二人には明確な違いがあった。


「そんなデカい盾……さっきから逃げ回ってばっかで、やる気あんのか!?」

「余計なお世話だよ!」


 悟郎が振り回すのは、“陽炎”の基本装備である長剣――“夜叉”。

 他に貸出機として“陽炎”を用いている生徒と何ら変わらない。


 一方、朔乃が装備しているのは、身の丈ほどの大盾――“群青の十字盾アース・ヒルドル”。

 これも零華の思い付きで開発され、日の目を見ることのなかった試作武装だ。

 当然、アリアの“濃霧の長銃ミスト・クローフィー”と同様、零華の厚意兼、データ取りがてら貸し出されていることは言うまでもない。

 その結果、今も悟郎の斬撃を弾き、朔乃の生存に大きく貢献していることも――。


「皆と同じように正面から戦っても意味ないんだから……」


 だが現状、最後の六人まで残っているとはいえ、朔乃の撃墜スコアはゼロ。

 数週間前までの真っ先に撃墜されそうな状態を思えば大健闘ではあるが、周りへのアピールには程遠いだろう。

 なぜなら、このままでは実力で生き残ったというより、消極的な戦いで生き残ってしまっている――としか思われないからだ。

 それもFクラスということで、積み上げて来た内申点は皆無。


 勝つにせよ、負けるにせよ、ガツンと一発かます必要がある――というのは、訓練中の雪那の言葉。

 そこが試験合格に向けての最低到達ラインだと考えれば、朔乃の現状は厳しいものがある。

 加えて、仮にも目の前の相手がAクラスの上から数えた方が早い人間とあって尚更だ。


「ごちゃごちゃうるせぇ! お前みたいなのは、俺たちの養分になってりゃいいんだよ! この、ゴミ女ァ!!」

「事情も知らないのに、好き放題言わないで! 私だって、好きでこんな風になったわけじゃないんだから……!」


 しかし朔乃にとっては、不幸中の幸いと称せる事態が二つほど発生している。


 一つ目は、魔導の練度差がモロに出てしまう空中戦ではなく、地上戦がメインになっていること。

 二つ目は、参加人数が減っていることにより、目の前の相手に集中出来ること。


 つまり戦況そのものが経験不足をある程度カバーしてくれている。

 相手が弱くなるわけではないが、自分の弱みを晒さなくても済む。これだけでも大きすぎる要因となるのは、想像に難くない。


「オラッ! オラッ! 大泣きするまでボコしてやるぜ!」

「こ、の……!」


 加えて、校門の一件で朔乃の弱さを知っているからこそ、悟郎の動きには無駄が多い。

 その理由は、教師へのアピールのため。

 言うなれば、部活中に必要のないスーパープレイを披露して顧問から怒られる。そんな風に調子に乗った戦い方をしているわけだ。


 それに何より――。


 天月烈火、神宮寺雪那、ヴィクトリア・シュトローム。

 随分と手加減されていたとはいえ、実質的に皇国を代表する魔導騎士である三人の動きを間近で見て来たのだから、恐れなど微塵も抱くはずもない。


「いい加減……当たれや!」


 ――“ディバインスラッシュ”。

 悟郎は刀身を回り込ませるように横から突っ込み、斬撃魔導を発動させるが――。


「軌道が丸分かり。止まってえるよ!」

「何ぃっ!?」


 ――“プロテクション”。

 “群青の十字盾アース・ヒルドル”を覆うように出現したのは、分厚い魔力障壁。

 まるで城壁が立ちふさがるような堅牢さで、悟郎の斬撃を軽く弾き返して見せる。


「お、れが……こんなゴミ女に押し返され……」

「これで……っ!」

「ごぶぅぅううっっ!?!?」


 直後、障壁を維持したまま直進。

 つまりはシールドバッシュ。

 斬撃を弾かれて体勢を崩していた悟郎の身体を軽く弾き飛ばしてしまう。


「田舎者風情が、この僕を手こずらせるなど……!」


 奇しくも向かう先は、今も涼斗とぶつかり合っている陸夜の元。


「ぬおおぉぉっっ!?!?」

「そんなこと万死に……ッ!? がぁああっ!?」


 その結果、二人は見事な交通事故を起こしてしまうことになった。

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