第108話 金髪美女とお持ち帰り
「結局、流れで連れて帰って来てしまった」
目の前に立っているのは、見覚えのある自分の家。
腕の中では、金髪美女がすやすやと吐息を立てて寝入っている。
言ってしまえば、お持ち帰り――ということになってしまうわけだ。
勿論、変な意味ではなく、物理的にではあるが。
とはいえ、せっかくこうして寝ているところを起こすのは忍びなかったし、そもそも泊っているホテルすら分からない。
それに何より、本人の処遇についても説明しないといけないわけだし、これは不可抗力だ。今は自分に言い聞かせるしかないだろう。
まあこの人の場合、初給料日までホテルに泊まり続けられるのか――という問題もある気がするがな。
「まあ当面はしゃーなしか……」
必要以上過保護をする気もないが、とにかく今は休ませてやるべきだ。
幸いしばらくは休校で時間もあるし、俺も休もう――なんて思っていた時、玄関先で幼馴染と鉢合わせとすることになってしまうことになる。
「烈火……」
「ああ雪那か……せっかくの休みなのに、実家に呼び出されるなんて災難だったな」
「いや、そんなことはどうでもいい。それより今抱えているモノは、一体何なのだ?」
春先間近で少し露出が増えた私服姿の雪那ではあるが、何やら愕然とした表情を浮かべている。
まあ俺の
とりあえず玄関先で話すのも――ということで、爆睡中のシュトローム教諭をベッドに運ぶところまでは我慢してくれたらしいが、今も雪那からの眼差しが冷たいことは言うまでもないだろう。
「あー、ちょっとそこで拾った」
「元の場所に返して来なさい……とでも言えばいいのか?」
「返す場所がないから、連れて来るしかなかったんだよ」
年上外国人美女をお姫様抱っこでお持ち帰りした挙句、自分の家に連れ込んで寝かせている。
雪那視点から見た俺の印象は、最悪極まりないことだろう。
一応、良いことをしているはずなんだが、綺麗にニアミスしているというか、一歩間違えばとんでもないチャラ男になってしまうというか。
「一応、念のために聞かざるを得ないが……まさか
「当たり前……というか、色々込み入った事情があるんだよ」
「むぅ……」
まあ年頃の女子らしく変に勘ぐって来たり、
「んー、んぅ……くぁー」
そんな微妙な空気が流れる最中、もぞもぞと布団が盛り上がったかと思えば、絹の様な金髪が揺れる。
間の抜けた声を受けて目を向ければ、自称・年上のお姉さんはスーツの袖で半開きの目を擦り、小さな口に手を当てながら呑気にあくびをしていた。
寝起きからの再起動に時間がかかっている辺り、何とも普段の立ち振る舞いの通りというべきかもしれない。
「……こんばんは。シュトローム教諭」
「こんばんはー……って、ふぇ!? あれ、ここはどこなの!? 私はさっきまで……!?」
頭で舟を漕いでいたシュトローム教諭ではあるが、知らないベッドの上で寝かされているとあって完全パニック。
仮にも名門理事長の前で失礼でもしたのか――と、慌てて周囲をキョロキョロと見渡し始めていた。
「ここは俺の家です。あの、ババア……理事長との話は一区切りついたので、その辺りの説明と……まあ宿泊先が分からなかったので、とりあえず寝落ちした貴方を連れて来ました。取って食おうってわけじゃないので、安心してくれると助かるんですけど……」
「そ、それは、ありがとう……って、言えばいいのかな?」
年下に介抱されただとか、寝顔を見られただとか、家に連れ込まれただとか――まあ恥ずかしいポイントは山ほどあるのだろう。
当のシュトローム教諭が掛布団を
事情を知らない人間が端から見た時、思いっきり勘違いされかねないことを除けば――。
「ん、んっ!!」
わざとらしい咳払いと共に、話が違う――と、ジト目を向けられたのがはっきりと分かった。
「……あれ、そういえば、貴方は?」
「ミツルギ学園一年、神宮寺雪那です」
「あー、対抗戦で活躍してた子だね。私は、ヴィクトリア・シュトローム。えっと……」
互いに向き合う美少女と美女。
自己紹介はつつがなく行われると思われたが、肩書きを失ったシュトローム教諭が
想定とは違うが、いよいよ本題に入るとしようか。
「来年度から、ミツルギ学園の魔導実技担当になる新任教師だな」
「ふぇ……!?」
「書類や手続きはまた後日だそうですけど、良かったですね。再就職決まりましたよ」
目を白黒されるシュトローム教諭に対し、
すると、感極まってしまったのか、当の張本人はベッドを軋ませながら、俺に飛び付いてきてしまう。
「ホント!? ホントにホント!?」
「ホントにホントなので、あんまりくっ付かれると……!?」
目をキラキラさせながらのガッチリ抱擁。
行動だけを見れば、萌ポイントの高い可愛らしい行為になるのだろうが、肝心のシュトローム教諭は大人の女性。
それも、ザ・外国のグラマラス美女。
「えへへ……良かったよぉ……」
肉感的に波打つ身体をこれ見よがしに擦りつけられるのは、青少年の教育上よろしくない。
何より、仏の顔も三度まで――。
「ふふっ……私の前で不純異性交遊など、いい度胸だな?」
ブチ切れて修羅の女神と化した雪那から、絶対零度の殺気が降り注いで来る。
しかもびっくりしたシュトローム教諭がより強くしがみ付いて来た
お隣さんだし、神宮寺家の令嬢だし――で、雪那にもある程度の事情を説明する必要があったとはいえ、これは思わぬ大ピンチだ。
多分、この後には、まだ抱き着かれるどころじゃ済みそうにない
年上美人の
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