第17話 狙われた永劫の神
――決闘騒ぎから初めての登校日。
俺は放課後の訓練場で“陽炎”を
「がははははっ!! いよいよこの時が来たな!」
「別に誰も待ってませんけど……」
無駄にデカい声で馬鹿笑いしているのは、
下の名前は知らないし、わざわざ聞き返すほどの興味もない。
ようやく決闘騒ぎも終わって平和になった中、なぜこうなってしまったのかと言えば――。
「いよいよ来た! 俺様も
「だから物理的に無理だって……。専属契約とか……」
Fクラスである俺がAクラスの土守を倒すなんてことは学園創設以来、前代未聞の事態。それが原因で、随分と学園が騒がしくなったのは事実だ。
とはいえ、Fクラスの実力を素直に認める者は少なく、みんなの注目は俺が所有している“アイオーン”に集まることになった。
つまり高性能な
逆にFクラスである俺を土守に勝たせるほどの性能なら、より優れた自分が使った方が良いじゃないか。
だから先輩である俺に寄こしやがれ、ゴラァ――というのが、今この状況だ。
言うなれば、古き
だが先日データ取りをしたように、
それにもかかわらず、俺に寄こせ――なんてのは、
まあ雪那や土守みたいに、実家が超大金持ちなら話は別かもしれないが――。
「だいたいよぉ。どの企業からも、俺様に契約の打診が来ねぇなんておかしいぜ!? だから俺様の力を見せつけてやれば、ぜってー大人たちも考えを変えるはずだろ!?」
「三年の冬になっても進路が決まってないんですね。多分そういうところが原因かと……」
「うるせぇ! テメェをボコれば、手っ取り早く
「無駄にポジティブで人生楽しそうですね」
冬休みが終わって、一ヶ月ほどが経過した今日この頃。
当然、最高学年である三年生は卒業を待つのみであり――。
天命騎士団へ入団する者。
研究生として学園に残ったり、同系統の大学へ移る者。
“
己に限界を感じて、魔導から離れる道を選択した者。
行く先はどうあれ、今は既に九割方の三年生が進路を決めている時期であるはず。
余程のことがなければ――とは思うが、まあこの感じからして、余程アレな人なのだろう。
まさか高校生にもなって、ガキ大将に絡まれる日が来るとは――。
「うし! じゃあ、お待ちかねの試合開始だぁ!!」
一方の五里田は、こちらの事情などお構いなし。
剣を手に突っ込んで来る。
今日は珍しい地上戦だ。
ちなみに今俺が使っているのは、奴と同じ“陽炎”。
なぜ“アイオーン”でないのかと言えば、
「会話のドッジボールだな。全然、話が通じていない」
しかし脂肪で真ん丸なシルエットが迫ってくる様は、色々な意味で凄まじい威圧感を放っている。
奴が右手に持っている“夜叉”も、剣というより
「うらああぁっ――!!」
――“ディバインスラッシュ”。
振り上げられた剣が
発動されたのは斬撃魔導であり、効果は刃物に魔力を
武器を使っての
だがデカい見た目通りの威力を秘めてこそいるが、速さに関しては大したことはない。
軽く横に飛べば、
その上、剣を振り下ろした直後とあって、完全に隙だらけだ。
「――っ!」
更に跳躍。
身体を横回転させて遠心力を加え、魔力で強化した左足で五里田を蹴り抜く。
「が、ッ……ぎっ!?」
蒼い魔力を
吹き飛んだ奴は地面へと激突し、身体が
今回は“陽炎”が耐えられる限界くらいまで出力を抑えているとはいえ、ちゃんと急所を撃ち抜いた。
普通であれば、これで終わりであるはずだが――。
「お、お……俺様の顔にィ!! 傷が付いたじゃねぇかぁぁっ!!!!」
「……
「テメェ、マジで半殺し確定だ!! ゴラァっ!!!!」
奴は健在。
俺の心情としては感心と呆れが半分ずつという感じではあるが、当の五里田は鬼の形相で魔力を放出していた。
だが“マジックバレット”のように、その魔力が襲い
溢れ出した魔力は奴の回りに集い、巨大な岩の塊と化したのだから。
「魔力変換・“土”……腐っても三年ってことか」
五里田が出現させた岩塊は、元から奴が所持していたわけでも自然界から転移して来たわけでもない。
この岩塊は、奴自身の魔力が変換されて形作られたものであり、自身の魔力を別の物質に変換する運用法は、“魔力変換”と呼ばれている。
更に“魔力変換”に関しては、
私は炎が得意。
僕は雷が――というように、魔導騎士は適性が高い属性の“魔力変換”を行使できるとされている。
しかし“マジックバレット”や“ディバインスラッシュ”のような“無属性”とは魔力運用が若干異なる影響で、相互関係でありながらも上級技能とされている。
中には変換可能適性が一属性もない者が存在しているほどだ。
そんな中、奴は見事に“属性魔導”を操っている。
性格に難ありとはいえ、大口を叩いて闘いを挑んで来るだけのことはあるようだ。
「こいつをくらえや――!! “ソイル・バースト”!」
直後、五里田が出現させた岩塊の嵐が黄土の光を帯び、こっちに向かって飛んで来る。
しかしこの程度、
俺は
単純火力、攻撃範囲――共に土守の“マジックバレット”を大きく上回っている。
とはいえ、戦闘シミュレーターで戦った“メイレムワイバーン”や“ストレンジスパイダー”の遠距離攻撃と比べてしまえば、大した脅威にはならない。
直後、俺は左手の剣を逆手に持ち替えると、途中で飛来する岩塊の側面を
「これで終わりだ」
――“ディバインスラッシュ”。
奴の反応を超え、蒼閃を
「がっ!? ッ、に――!?」
すると奴は、自分が何をされたのかを認識する間もなく、その場に崩れ落ちる。
そして“陽炎”が強制解除。
つまり奴が力尽きたことを物語っているわけであり、判定の必要もなく勝敗は決した。
五里田の
実際は誰にも扱えない魔力ドカ食いの殺人マシンが、俺の手に渡っただけなのに――。
「……帰るか」
あの三年の
不本意な形で放課後の自由時間が潰され、思わず
「ん、そうだね。お疲れ様!」
「ああ、ありがとう」
「じゃあ、帰る前にちょっと座ろうか?」
「いや、そもそも……お前は誰だ?」
手渡されたスポーツドリンク。
隣で笑顔を浮かべる女子生徒。
一年であること以外何も分からず、知った風な口を利かれる筋合いはないわけで――。
「私は一年Aクラスの
ぱっちりと大きな目に加え、黒いシュシュで一
美少女――と呼べる顔立ちをした女子生徒は、変わらず笑顔を浮かべていた。
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