第14話 決闘終幕!

 ――“アイオーン”、展開解除。


 白亜はくあ戦闘装束せんとうしょうぞくが解除され、見覚えのある学生服に戻る。


「おかえり」

「ただいま……でいいのか?」


 すると、雪那からねぎらいの言葉をかけられた。


 模擬戦には勝った。

 俺自身、新たな力への手ごたえも感じている。


 でもこうして迎えてもらえることの方が、遥かに嬉しいのかもしれない。


「帰るか」

「ああ、そうだな。家の近くまでは、送っていこう」


 多くを語る必要はない。

 視線を交わし、学園を後にする。


「……こうやって二人で歩くのは、いつ以来だろうな?」


 俺と雪那は、落ちゆく夕日が照らす道を隣り合って歩いている。

 いつ以来――という、雪那の言葉には、色んな想いが込められているのだろう。


「想いが変わってしまったのだとしても、烈火の本質が変わっていないと分かっただけで私は嬉しかった。今はそれでいい」


 年月をれば、立場も責任も大きく変わる。

 子供だった頃のように自由に飛び回れるわけじゃない。


 そして雪那も大きな重責プレッシャーを背負う、名家令嬢という立場にある。Fクラスに落ちぶれた俺とは、完全に別の道を歩いていたはず。


 だがこうして俺も互いにすれ違っていた道が、再び交わるような感覚を覚えていた。


 そんな風に歩いていると、雪那の機嫌の良さを示すように一つに束ねられた長髪が舞うように揺れ踊る。

 しかも珍しく、無防備な微笑を顔に張り付けている。


 言われてみれば、こんな雪那を見るのは何年ぶりだろうか――。

 自然と考え込んでしまうかたわら、わざとらしい咳払せきばらいが響き渡る。


「ん、んっ! 結局、その“魔導兵装アルミュール”はどうしたのだ? 以前は持っていなかったと思うが?」


 雪那はゆるんだ表情を見られたのが恥ずかしかったのだろう。

 健気けなげにも彼女らしくない照れ隠しで強引に話題転換を図っている。

 まあ今日は俺も疲れた。別にイジったりはしない。


「零華さんからテスターを頼まれて、俺が使うことになった。Fクラスの固有ワンオフ機持ちは、前代未聞ぜんだいみもんかもな」

「むっ……そういうことか。むしろ、あの人が烈火に固有ワンオフ機を渡していなかったことの方が驚きなのかもしれんな」


 雪那は俺の保護者とも面識がある。

 どこかぶっ飛んだところのある零華さんのことを思い返し、どこか納得した様子でうなずいていた。


「ではこれからは忙しくなるのだな?」

「だろうな。この機体もまだ試作段階だから稼働かどう実験で引っ張り回されることもあるだろうし、今日のことで騒ぎにもなるはずだ。とはいえ、もう十分休んだ。退屈するよりはマシだ」

「そうか……」


 打てば響く、友達との会話。

 こんなに気兼きがねなく過ごせているのは、本当に久々だった。


 今こうしていられるのは、雪那や麗華さんのおかげなのだろう。


 両親の死の真相。

 世界の闇。


 進むべき指針ししんが明確になった一方、もう一つ強い想いがき上がって来ていた。

 悪意を持つ人間や異次元の侵攻者から、みんなをまもる。


 たとえ世界が信じられなくとも、他の連中がどうなろうとも、こうして信じてくれる人たちの想いにはむくいたい。

 それだけは決して揺るがない真実だと思うから――。


「そ、そういえば、だな。まあ、その……何だ……烈火のおかげでおかしな奴から解放されたわけで……。礼を言わせてくれ。ありがとう」

「……俺は降りかかる火の粉を振り払っただけだ。礼は要らない」


 雪那のお礼が嬉しくないわけじゃないが、俺の返答も本心からのものだった。

 そもそも土守が勝手に言い出した条件に対して、俺が色々付け加えただけ。

 ある意味、この事件における一番の被害者は、勝手に景品にされてしまった雪那だ。


 結果、俺はそれが気に食わなくて、わざわざ決闘とやらを受けた。

 ただそれだけのことなのだから――。


 一方の雪那は、目を丸くしたかと思えば顔を反らした。

 だが何事かと思った直後、左腕に柔らかい感触が広がる。突如、腕を組まれていたわけだが、気恥ずかしさと共に頭の中を疑問符が飛び交う。

 しかしグラビアモデルも涙目な雪那にこんなことをされた以上、思考力や理性がゴリゴリ削られていくわけで――。


「……烈火も、素直じゃないのは相変わらずだな」

「何の話だ?」


 今は膨れっ面の雪那に少しズレた答えを返すのが精一杯だった。

 まあ俺たちの顔が真っ赤に染まっている原因は、沈みかけの夕日にでも聞いてくれると嬉しい。


 ともかく学園中を騒がせた決闘騒ぎは、こうして終息した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る