①君の『悪役(ヒール)』は俺のもの!―—最高のヒーローになってもらいたいので、中途半端な悪は俺が叩き潰します――
紅葉 紅羽
第1話 プロット
①君の『悪役(ヒール)』は俺のもの!―—最高のヒーローになってもらうために、中途半端な悪は全部叩き潰します――
世界観;魔術の発展、そして現代科学との両立により、人一人が持てる力が今よりもはるかに大きくなった少し先の日本。学校教育でも魔術の訓練が基礎科目となったことにより、それゆえに力に溺れて暴力行為に走る者も増えた。逮捕しても逮捕しても後を絶たない犯罪者の発生によって警察組織だけでは自治に困ると見た人々の中には、自らの力を以て自衛を行う者たちも現れ始めていた。その中には自分だけでなく他の人々も守る人間もおり、そう言った者たちの魔術の行使、あるいは戦闘行為は黙認される状況となっている。
そんな中で犯罪者も徒党を組む風潮が現れ、その勢力同士が表通りで衝突することもしばしば。魔術によってもたらされた発展は、皮肉なことに争いを人々にとってより身近なものにしている。
主要キャラクター
主人公:森崎 泰輔(もりさき たいすけ)
高校二年生。身長は百六十センチと小さめで本人もそれをコンプレックスとしている。三白眼かつ釣り目気味で何もしなくても目付きが鋭いので、初対面の人には怖い人だと思われがち。本人曰く『黒目のせいでなおさらひどい』らしい。
性格は本人曰く『超アクティブ』で、その言葉通り気に入らない事を見ると我慢できずに突っかかっていく一面がある。間違ったことが嫌いというよりは、信念がない行動をする人間を嫌っている。人並み外れた魔術のセンスもあり頭も相応に切れるので、学校側からは厄介な問題児として認識されている。
さながら悪ガキをそのまま高校生にしたような印象だが、一度仲間と認めた人に対してはとても優しく接する。身内意識が強いこともあってか、仲間が傷つけられたことに対して暴走気味に行動を起こすことも多い。
ファッションには無頓着で、つややかな黒髪の手入れも最小限にとどめている。学外にいる時は大体黒のシャツにジーパンを合わせている。そのファッションセンスは幼馴染の陽彩(ひいろ。本作のメインヒロイン)にも呆れられるほどであるが、それを補って余りある端正な顔立ちのため学内外にファンは多い。それに対して本人は無自覚。むしろ付きまとってきて面倒くさいとすら思っている。
何故面倒くさいのかと言えば、幼いころからずっと想いを寄せている陽彩との二人きりの時間が減るからである。普段は強気な彼も陽彩にだけはそうなり切れず、いつも陽彩に叱られているような構図に落ち着いてしまうのが最近の悩み。
そんな彼だが、一週間に一度か二度誰にも足取りを掴めない時間が存在する。彼の行方が分からなくなったその次の日にはきまって犯罪者の逮捕報道が連続しているのだが、それと泰輔の関係を探る者はいない。稀に聞かれても彼は知らん顔をするだけだ。
そんな彼だが、仲間にしか、そして犯罪者集団の間でしか知られていないもう一つの名が存在する。『フォレスト』という名乗りを聞けば、この街を暗躍している犯罪者たちは震え上がる事であろう。その活動期間は実に二年弱に上り、『フォレスト』の活動によっていくつもの組織が打撃を受けて来た。警察からしたら表彰ものの働きなのだが、その正体は一切明らかになっていない。
彼が『フォレスト』として暗躍する理由は、幼いころからずっとそばで見て来た陽彩の夢を実現することにある。『幼いころアニメで見たようなヒーローになる』という彼女の夢を叶えるべく、『陽彩に倒されるのに相応しい悪』となるべく彼は日夜暗躍を続けているというわけだ。
だがしかし、前述したとおり彼は仲間意識が強い。おまけに陽彩のこととなると過保護になったうえ知能が低下する傾向にあるので、『こんな中途半端な悪を陽彩に倒させない、初めて陽彩に倒されるのは自分でなくてはならない』と日夜犯罪者たちを叩きのめし続ける彼の姿はさながらヒーローのそれである。ちなみに泰輔は気づいていない。
両親は仕事で帰宅が遅いため、泰輔が『フォレスト』として活動していても咎める者はいない。……というか、知っていても多分咎めない。彼の家は放任主義である。
そんなヒーローまがいのことをしているものだから、『フォレスト』として活動する泰輔に惚れ込んだ人間も多数存在する。泰輔はその人らと『フォレスト』の名前を組織的に共有し、泰輔の目的のため彼らはちょくちょく会議を開いているのだが、どうにも空回りに終わりがちなのが悲しい現状だ。それでも彼は理想の『悪の親玉』になるべく、日夜研鑽(?)に励み続けている。
「お前たちみたいな中途半端な奴ら、悪にすらなれると思うんじゃねえぞ?」
「……さて、今日も集会と行こうじゃないか」
「……俺は、陽彩を輝かせるための陰になる」
「その身長じゃ悪としての風格が足りない? ……よし、ちょっとこっちこい。実力行使で分からせてやっから」
ヒロイン:綿貫 陽彩 (わたぬき ひいろ)
泰輔の幼馴染の高校二年生。泰輔より少し小さいくらいの身長で、赤い髪を腰まで肩甲骨付近まで伸ばしている。
学級委員長を務め、生徒会にも所属しているなど真面目で品行方正ではあるが、やんちゃな泰輔を説き伏せることができる度胸も持ち合わせている。男女問わず間違っていることはしっかり正すその姿は有名で、男女ともに高い人気を誇っている。
そんな彼女の夢は、『小さいころアニメで見たようなヒーローになる事』。実現できるわけがないと笑われてきた夢は、彼女らが小学三年生の時に起きた魔術の黎明によって実現可能なものへと覆された。生徒会に入ったこともその一環であり、彼女の行動は彼女が思い描く『理想のヒーロー像』に基づいて行われている。
だがしかし、泰輔の前ではその意識を忘れておてんばにふるまうことも。そんな素の姿も実は隠れて人気を博しているのだが、陽彩本人がそれに気づくことは無い。
そんな彼女の努力は立ち振る舞いにとどまらず、地域に存在する自衛団に所属して戦闘技術の習得に励んでいるのだが、不思議なことに陽彩がパトロールに出る時は犯罪集団が目立った動きを起こさない。もちろん何も起こらず平和であることが自衛団としても最良ではあるのだが、その現実に陽彩は少なからず戸惑っているようである。もちろんそれが泰輔のせいであることは知る由もない。
男女問わず、そしてクラス内外を問わず人気が高い陽彩であるが、今交際している男子はいない。陽彩本人曰く『忙しくて今はそんなことを考えていられない』ということだが、その実はもう心に決めた人がいるのではないかともっぱらの噂になっている。そのせいもあって、心に決めた人最有力候補にされている泰輔には不当なヘイトが過激なファンから向けられることもしばしば。
だが、その推測は大体当たっている。陽彩は小さいころから自分の信念を貫き通す泰輔の姿に憧れており、『ヒーローになりたい』という願いは『泰輔のように信念を貫き通す人物になりたい』という願いも含有している。自分でも認められるようなヒーローになれた時に泰輔に思いを伝えたいと考えているが、その道のりが泰輔によって過剰に整備されていることによってその恋路は遠回りを強いられている。
「みんな、早く席に着きなさい?」
「ちょっと何よ泰輔、あんたに見下ろされてもちっとも威圧感なんてないんだからね? というか、見下ろせてないし」
「……あたしは、皆を笑顔にできるヒーローになりたいの。その後ろ姿で皆に希望を与えられるような、かっこいいヒーローにね」
サブキャラクター:笠寺 円次(かさでら えんじ)
『フォレスト』に所属し、泰輔の活動を支援する三十五歳、中肉中背の男性。茶髪に黒目で、見た目に無頓着なためか無精ひげがよく生えている。
本業はエンジニアで、未だ世間的には珍しい魔術と工学をハイレベルに融合させる技術を独自で編み出している。自身がかつて勤務していた会社でそれを発表したところ、上司に手柄も利益もすべて奪われそうになったことからその会社を辞職、以降はフリーで動くようになる。これで自分のために技術を研究できる――と安堵していたところ、今度はその話を聞きつけた犯罪組織に拘束、破壊兵器を強制的に研究させられる羽目になってしまう。
必死の抵抗もむなしくそれが完成しようとしていた直前、『フォレスト』としての活動を開始していた泰輔の手によって円次を拘束していた組織は打撃を受け、円次は助け出されることになる。
その際に泰輔が語る悪としての美学、そして陽彩への想いに触れ、その美しさと未熟さを円次は同時に痛感する。大人としての経験でまだ高校生の泰輔を助けるべく、組織の頭脳、そして技術担当として『フォレスト』の仲間になる事を提案。泰輔もそれを受け入れ、それ以降は泰輔の戦闘をサポートするための器具の研究に精を出している。
そこに至るまでに汚い社会を見てきたからか、酒癖がかなり悪い。どうやらかなりハイペースで飲んでいるようで、オペレーター兼サポーターとして参加する作戦の時に二日酔いになっていることもしばしば。しかしその開発力と思考能力はやはり常軌を逸しており、泰輔も『尊敬できる大人』として一目置いている節がある。
なお、過去に研究に没頭しすぎたせいで婚約者に捨てられた過去を持っているらしい。そのせいもあってか、泰輔の陽彩を常に優先する姿勢を高く買っている。
「オッサンの忠言は聞いとくもんだぞ? どこかで役に立つかもしれねえからな」
「……まったく、若い奴らはむやみに眩しくていけねえよ。俺にもまだ何かできるかもって、そう思わされちまう」
「俺みたいなオッサンはさ、夢を見るには現実で汚れすぎてんだ。……だから、お前さんのでっけえ夢を俺にも見せてくれや」
「いいかあ泰輔え……心に決めた女は、どんなことがあっても大切にするのが真の男ってもんだぜえ……?」(泥酔時)
サブキャラクター:綿貫 詩乃(わたぬき しの)
『フォレスト』所属の十三歳。陽彩と同じ苗字を名乗っているが、彼女は綿貫家の養子なので血は繋がっていない。色素が抜けたような白色のロングヘアに紅い瞳は、どこか白蛇を思わせる。
彼女の正体はかつて犯罪組織でスパイ兼刺客として育てられていた少女で、幼いころから英才教育を受けていたことからその身体能力、そして技術は年齢からは想像できないほどに洗練されている。
詩乃がいた組織が魔術の発生以前から活動していたところなのもあって、魔術に頼らないことに関してもお手の物。円次が開発する魔道具にもすんなりと慣れられるほどに、彼女の適応力はずば抜けている。
そんな彼女が所属していた組織は、『フォレスト』の手によって壊滅に追い込まれている。詩乃も当時侵入者であった『フォレスト』と戦闘を繰り広げたが、元来の優しい性格が災いして『フォレスト』を止めることはできなかった。彼女は諜報や工作、そして外敵の無力化には長けていたが、『人を殺すこと』だけはできなかったのである。
そんな気質を見抜いたからか、泰輔は彼女に『フォレスト』へ寝返るように告げる。それと同時に事件に巻き込まれた子供を保護する制度を使い、どこかの養子としてもらってもらうことを提案した。そうしてもらわれていった先が陽彩の家であるのは全くの偶然だったが、詩乃は陽彩のことを本当の姉のように慕っている。ちなみに詩乃の身体能力については綿貫家の中で認識されており、陽彩に近接格闘を指導することもしばしば。
そんな彼女は、『フォレスト』で泰輔の援護を担当している。もともと気絶させたりと言ったことに関しては抵抗感があまりないようなので、『誰も殺さない』という泰輔の方針とは噛みあいが良かったらしい。
口数は決して多くないが、自分の意見をしっかり押し出すこともできる芯の強さを持ち合わせている。幼いころから英才教育を受けて来た詩乃の意見には泰輔もうなるほどで、『フォレスト』の作戦指揮レベルは彼女が加わってから大きく跳ね上がったと言ってもいいほどだ。
「……私、今の環境、好きだよ」
「そこをどいて。……私は、泰輔お兄ちゃんのお手伝いをするんだから」
「私はもう、嫌だって思いながら戦いたくない。私の力は、私が大事にしたい人のために使うんだ」
サブキャラクター:三好 優華(みよし ゆうか)
泰輔のクラスメイトであり、泰輔の正体を知る唯一の同世代。黒髪を長く伸ばしており、赤渕の眼鏡の奥からは茶色の瞳が覗いている。泰輔よりも身長が五センチほど高く、よく身長のことで泰輔をからかっている。
そんな彼女が泰輔を『フォレスト』として認識するようになったのには、彼女の信条が関係している。彼女は二年生ながら新聞部の部長の座を奪って見せたほどに情報に対しての取材力が高く、普通では高校の壁新聞でも扱わないような情報までも取材しつくして記事にしてしまうことに定評があった。
その取材の一環で夜に活動している時、とある組織の重要な情報を握ってしまったことにより優華はその組織から追われる羽目になる。その追跡に辟易していたところを泰輔に助けられ、彼女は『フォレスト』の存在を知ることになった。
泰輔自身は彼女にそれ以上の情報を与えはしなかったのだが、優華の取材力はすさまじいものだった。警察ですらたどり着けなかった『フォレスト』の正体に勘付き、見事泰輔の下にまでたどり着くことに成功する。
クラスメイトという立場がそれを助けたことは大きいが、その調査力と分析力に泰輔は脱帽、優華を『フォレスト』に勧誘する。なお、その際に『取材』と称して泰輔が活動する理由を全て聞きだされたことに関しては今でも根に持っている模様。
『フォレスト』に所属している他の二人と違って戦闘能力や技術力があるわけではないが、データを収集、分析する能力はずば抜けて高い。特定の組織にターゲットを向けて追う場合には、彼女の力はとても役に立つであろう。
そんな彼女だが、泰輔へのスタンスは飄々としたものだ。ただの友人のようにも、特別な存在として接しているようにも見えるその姿はこっそり陽彩に焦りをもたらしていたのだが、それを知る者は一人もいない。
「何、また知りたいことが出来たの?どれどれ、お姉さんに聞かせてみな」
「お姉さんにお任せあれ。情報処理はあたしに任せて、皆は思いっきり暴れてきちゃって大丈夫だからね」
「ふう……ほんと、ここは飽き飽きしなくて面白いや」
魔術について
作中時間から約十年前に人類たちに突如発現した、自分の内にある魔力を空気中に存在する魔力と共振させ、発火や凍結、あるいは突風などの変化を起こす技術。基本的に属性などの概念はなく、訓練すればするだけ魔力を扱う技術は向上するとされる。空気中の魔力との共振が魔術の核として存在するため、自分の内に存在する魔力のみで魔術を行使しようとするのは非常にリスキーな行為である。
万能にも思える技術ではあるが、魔術を用いた治療行為というのは確認されていない。あくまで可能なのは自然現象によって発生しうる現象と、魔力そのものを加工して現実に干渉することだけである(竜巻を起こしたり地面を隆起させたりといったことは魔力さえ充実していれば不可能ではないが、傷を塞いだり機能不全になった臓器を回復させたりすることは不可能)。その代替技術として、魔力を用いた自然回復力の促進が研究テーマとして挙げられている。
直接的な治癒魔術が存在しないことを踏まえ、一部の哲学者からは『魔術は他者を傷つける道具にしかなりえない』という指摘もなされているが、様々な産業を発展させた功績からその主張は黙殺されていると言ってもいい。
『今後の時代を生き抜くための技術』として、学校教育にも魔術の訓練はカリキュラムとして取り入れられている。魔術理論などの座学と実技の両面からの評価が下され、泰輔は実技面が、優華は座学面が、陽彩は実技座学ともに優秀。
泰輔は魔術を使って自分自身の身体能力を強化したり、魔力を変化させないままに凝固させて弾丸にして打ち放つなどの魔術を得意とする。
犯罪組織
魔術の到来によって一個人の力が強くなったことによって、人類の文化に様々な恩恵を与えた魔術の負の側面として、犯罪組織の乱立、そして衝突が挙げられる。一般人には手を出さないというのは幻想で、目的のためなら一般人を巻き込むこともいとわない。内部抗争や衝突の結果でトップがころころと変わるため正式な名称は存在しないが、警察側は主要な犯罪組織を三つの傾向に区分している。しかし、同じ系統の組織の中でも衝突が起こることもあるため、その区分は形骸化しているとの指摘も絶えない。
魔術工房(ラボラトリー):犯罪集団の中でも、『魔術の源流を探求すること、そして魔力というものをより深く理解すること』を理念としたものを指す。それだけ聞けば無害なように思えるが、彼等は目的のために外道を侵すことをいとわない、いわゆる『マッドサイエンティスト』と言える集団である。詩乃がいた組織もこれに当たり、彼女は様々な実験を受けている。
一度大規模な爆破事故を起こしたことから、『魔術工房に土地を与えてはいけない』というのは警察の中での共通認識。
喧嘩屋(ウォーリアー):魔術という大きな力を得たにもかかわらず、抑圧されることに耐えきれなくなった者たちのことを指す。単純明快に暴力的であり、それ故に一番犯罪件数が多い。喧嘩屋同士の衝突が大事件に繋がることも多く、一番警察が対策に力を割いている組織ともいえる。
転覆派(イノベイター):魔術という力が人間に与えられた意味をこそ考え、その結果『現状に大きな変化を与えること』を目的として動いている集団を指す。最終的な目的は現体制の破壊とかなり大きく出ているが、それ故にその勢力も大きい。現実社会に溶け込んで活動しているものも多いため、いざ動き出した時に最も危険なのはこの傾向の組織だと分析することも多い。
なお、このどれにも属さないならず者も一定数存在する。
物語構成と展開
プロローグ:とある作戦の決行直前、『フォレスト』に所属する四人は通信を用いてやり取りをする。軽妙なやり取りをしつつも、実行犯である詩乃と泰輔は今回標的とする組織をロックオン、事前情報で得ていた組織の行動開始時間を待っている。ここのやり取りで四人の立ち位置と性格を見せつつ、いざ実行、と踏み込んで少し戦闘を見せたところで泰輔の回想、一章へと繋がる。
第一章:高校に通っている泰輔の日常と、陽彩への想いを泰輔視点から確認させる。泰輔は寝坊したせいで待っていてくれた陽彩ともども遅刻しかけるが、泰輔が身体能力を強化し、陽彩を抱えて全力疾走することで何とか始業時刻に間に合うことに成功、クラスメイト達はそれを『またか』といった感じで受け入れる。
座学の授業には興味を見せないが、魔術訓練の授業では泰輔はその才覚を発揮、教師に『魔術の才能だけはずば抜けている』と肩を竦めさせる。
そんな感じで一日を終えた泰輔は、陽彩が声をかける暇もなく学校を出てどこかへと向かってしまう。向かう先は、もちろん『フォレスト』の隠れ家だ。
そこでは先にいた詩乃と円次が今夜に向けての作戦会議を行っており、そこに優華も合流して作戦会議は煮詰まっていく。そうして万全の準備を整えたうえでいざ作戦地点へ――という流れを経て、冒頭のシーンに繋がる。
その作戦は見事にはまり、犯罪組織は一網打尽に。遠くから警察が迫っていることを勘付くと、詩乃と泰輔は速やかにその場を去るのであった。
第二章:迫る学校のテスト期間に辟易しつつも、泰輔は学生と『フォレスト』の二重生活を継続していた。そんな中、陽彩が所属している自衛団がある犯罪組織をロックオンしていることが優華によって伝えられる。そこは魔術工房の類の者らであり、実験のための人さらいが絶えないというのだ。その話を聞いた詩乃は、自分と同じような境遇の子供が増えることを危惧、メンバーに『一刻も早く解決したい』と頼み込む。その頼みを泰輔たちも聞き入れ、彼等は人さらいの現場を掴もうと動き出す。
その結果、泰輔たちは彼らのアジトを特定、壊滅させることに成功する。しかしその活動の一部始終が自衛団に目撃されることによって、陽彩の耳に『フォレスト』の名前が届くのであった。
第三章:テストを終え、一まずの穏やかな日々を過ごしていた泰輔と陽彩。しかしそこに、陽彩が所属する自衛団のメンバーが襲撃されたという事件が飛び込んでくる。第二章にて壊滅させた魔術工房は裏で転覆派と繋がっており、泰輔たちが身を隠したことによってその実行者が自衛団だと誤認されてしまったのだ。この事件に陽彩が巻き込まれなかったことに安堵しつつも、巻き込んでしまったことを泰輔は悔いる。だが、円次の助言によって泰輔は立ち直り、転覆派の組織に反撃することを決意。さあ動き出そうといったタイミングで、念のため自衛団を見守らせていた詩乃から緊急の連絡が入る。―—その内容は、自衛団が再び襲撃されたというものだった。しかも今度は、陽彩もいるタイミングで。
第四章:その知らせを受けた泰輔は、陽彩を救うべく、そして組織に反撃するべく自衛団の本部へと急行する。そこは一人の魔術師が率いる集団によって襲われており、自衛団も必死に抵抗していたが劣勢なのは明らかだった。その状況を見て陽彩も参戦しようと魔術を構えるが、その瞬間に泰輔がその魔術師を横合いから殴り飛ばす。目を白黒させてその正体を問う魔術師に、泰輔は堂々と『フォレスト』の名を名乗るのであった。
そこからの戦闘は熾烈を極めたが、呉越同舟の形になった自衛団の援護もあって勢力を全て撃退することに成功する。その後、最後の力を振り絞って円次の下へと帰還した泰輔は、心から安堵したような笑みを浮かべるのであった。
エピローグ:その戦いが終わっても、『フォレスト』の活動が、そして『陽彩に倒されるのに相応しい悪になる』という目的が達成されるわけではない。そう気を引き締めた泰輔は、今日も今日とて作戦会議に臨むのだった。
一方の陽彩は、あの時の戦いの光景を何度も思い返していた。襲撃者相手に堂々と名乗りを上げるその声は、ずっと隣で聞いてきた泰輔の声にそっくりだったからだ。だが、陽彩の中でその仮説は仮説のままで終わる。ただ、陽彩のあこがれはあの時に塗り替わった。陽彩の中の目標は、あの燃える自衛団本部で堂々と名乗りを上げて見せた、『小さかったけどカッコいいヒーロー』だ。その話を聞かされた泰輔は、『どこで間違えたのだろう』と首をかしげる。カッコいいヒーローになって泰輔に想いを伝えたい陽彩と、そんな彼女に倒されるに相応しい悪を目指すふたりの日常は、少し複雑になりながらも続いていくのだった。
二巻以降に入れたいエピソード:優華の所属する新聞部の掘り下げ、泰輔がひょんなことから自衛団に体験入団してしまう話、詩乃がいた組織の元トップがまた泰輔たちの前に立ちはだかるエピソードなど。
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