第忌譚【照る照る坊主】・弐戎捌
おからは道なき道を進んで行く。時折立ち止まっては、僕が付いてこれているか確認するかの様に振り返る。
「はぁ、はぁ……大丈夫だよ。…………おから。
……これ位なら、なんとか付いて行けるから」
僕が途切れ途切れにそう言うと、おからは不安そうな顔を見せるが何かを思い付いた様に走り出す。
「あ、待って……おから」
流石に付いて行けない僕は、その場にへたり込む。そして、山道はこんなに険しいものだったろうかっと地面を見つめ考えているとふっと視界の端に赤いモノがチラつき驚いて顔をあげる。
「 ! おから、それって……」
どこに生えていたのか、おからはグミの実が沢山成ってる枝を咥えていた。そう言えば、ずっと飲まず食わずだった事を思い出し僕はおからから枝を受け取る。
「ありがとう」
近くの木から、少し大きめの葉を一枚取って僕はグミの実を何個か乗せるとそれをおからの前に置いた。霊体であるおからは、現世のモノを口には出来ないけどお供えと言う形でなら一緒に食べる事が出来る筈だと思ったからだ。
すると、おからは嬉しそうに口をもぐもぐさせる。食べ終わり、再び獣道を進むと心なしか先ほどよりも歩きやすい気がした。
休憩をして、食べ物を口に入れたおかげかなっと思い少しだけ歩みを早める。
しばらく、進むと開けた丘の様な場所に出た。丘の中心には、大きな桜の木が鎮座している。
「……あった」
樹齢二百年だと言われる桜の木。この桜は、何時の頃からか村人たちからご神木として崇められているんだ。
なんでも、願いの叶う桜だと言われていて病を治して貰ったと言う人の話を僕も昔聞いた事がある。椥が言うには、この桜に願えば【首無し法師】の妻子を冥府から呼び戻してくれるらしい。
上着のポケットからハンカチに包んだてるてる坊主を取り出すと、僕は桜の木に近付き根元に置いた。それから、ポケットティッシュでもう二体てるてる坊主を作って先に置いた一体の横に並べる。
「顔を描くペンを持ってないから、のっぺらぼうでごめんね……」
そう呟いてから、そっと手を合わせて桜の木へ願いを告げる。
「どうか、一人彷徨う彼を家族に会わせてあげて下さい」
願ったと同時に、桜の木が優しい光に包まれ……今は夏なのに、満開の桜が咲いたんだ。
「……きれい」
それは、今までの人生で見て来たどの桜よりも綺麗に見えた。思わず見とれていると、背後の茂みから音がする。
瞬間、僕の横でずっと大人しくしていたおからが唸り声をあげた。振り返ると、そこには【首無し法師】が立って居て思わず身構える。
けど、僕の後。桜の木の方から、優しい女性の声がした。
『あなた』
【首無し法師】の手から、黒い鎌が地面に落ちて霧散する。真っ黒だった袈裟が本来の白い色に戻っていき、無かった筈の首から上にてるてる坊主の記憶で見た優しい男性の顔があって大粒の涙を流していた。
『おとうさん』
次に少女の声が聞こえると、彼は走ってこちらへと向かって来たが僕には目もくれず桜の下へと向かいそこに立って居た二人を強く抱きしめる。
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