第忌譚【照る照る坊主】・弐戎漆
『わん ! 』
「 ! あ、ただいま。おから」
瞬きして、次に目を開くとおからが居た。僕が、普通の調子で声をかけてあげるとおからは安心した様にすり寄って来る。
「心配してくれてたの ? 」
『くぅ~』
「ありがとね」
『わん』
周りを見渡すと、懐かしい古びた社が目に入った。十二年前よりも更にボロボロになっていて、年月の流れを改めて実感させられる。
「白神神社……」
朽ちた社を見つめていると、懐かしい様な……それでいて、どこか疎ましい様な…………なんとも形容しがたい、不思議な気持ちが胸の底から湧き上がって来るのを感じた。なんだか、ここに居ると色々な感情が溢れて泣き出してしまいそうだ。
そう思った僕は、おからに行こうと言う意味で手招きをし境内を後にする。鳥居を潜った瞬間、何か背筋がゾクッとするモノを感じ辺りを見渡した。
『て……る、てる…………坊主……てる、坊………主』
「 ! 」
その低く唸る様な歌声が耳に届いたと同時に、僕は身を屈め茂みの中に身を隠す。恐怖で体が震えていると、おからがそっと身を寄せて来てくれた。
おからの顔を見ると『大丈夫だよ』っとでも言う様な、優しい目で僕を見つめてくれている。
「ありがと、おから」
僕は出来るだけ小さな声でそう呟くと、そっとおからの頭を撫でた。だが、そうしている間にも徐々に歌声は僕とおからが隠れる茂みへと近付いて来る。
声の主は【首無し法師】で間違いなさそうだ。そう確信すると同時に、頭に嫌な疑問が浮かぶ。
久哉はどうなったのだろう ? っと……けれど、隣に居るおからに異変が見られないので命に別状はないのだろうと思う。
式神は、術者の力によってこの世に顕現される存在。だから、久哉に何かあればおからも姿を保てず消える筈なんだ。
頭ではわかっていても、もしかしたらと言う思いが胸の中を渦巻く。
「……」
小さく深呼吸をして、僕は自分の気持ちをなんとか落ち着かせた。今は自分の出来る事をしよう。
先ほど椥に教えられた【妻子を現世に呼び戻せる方法】を実行するんだ。それが、今の僕に出来る最善。
不安に駆られて判断を誤れば、取り返しのつかない事になってしまう。一歩間違えたら、全員……
「おから。僕をご神木まで案内して、お願い」
おからは無言で頷くと、鼻を三回ひくつかせてから歩き出す。おそらくは【首無し法師】の居る方角を匂いで確認したのだろう。
霊臭と言って、幽霊にも匂いがあるのだと零士に聞いた事がある。悪霊は、どぶ川と残飯を混ぜ合わせたモノを更に酷くした様な匂いだと言っていた。
想像するだけで気持ち悪いが、感じ方は人によって違うらしい。あくまで、零士にはそう感じると言う意味で好い匂いに感じてしまう人も居るのだそう。
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