第忌譚【照る照る坊主】・弐戎陸

「傀儡……操り人形みたいな状態って、事 ? 」

『……うん』


 今の【首無し法師】は、自分の意志とは関係なく操られて行動している。それが事実なら、あんまりだ。

 皆の為に尽力したのに、報われる事無く非業の死を遂げ……その上、死んだ後にまでこんな。


「それで……僕は、これからどうしたら良いの ? 」

『あ、えっとね。これを、あげるから着けといてくれるかな ? 』

「これは、数珠 ? 」

『うん。僕の力を込めた数珠だよ。

 僕の名を、心の中で良いから呼んで。そしたら、いつでも力を貸す』

「わかった」


 椥から受け取った数珠を、僕はまじまじと観察した。数珠は、木製で珠の一つ一つに梵字ぼんじが刻まれている。


『ありがとう。それと』

「 ? 」

『……ハッキリとした理由は、僕もわからないんだけど…………妹は、綠くん。

 君に対して、異常な執着を持ってる様なんだ』

「え、なんで ? 」


 思いがけない言葉に驚いて僕は瞬時に聞き返すも、椥は無言で首を横に振るだけだった。そして、僕の両肩を掴むと真っ直とした目で椥は懇願する様に言葉を続ける。


『理由に関しては、僕にも本当に解らない。でも、妹は君を特別だって言ってた。


 もちろん。僕にとっても、君たちと遊んだ時間は特別だったよ。

 けれど……そんなのとは、比較にならないくらいの強い執着を感じるんだ。本当は、こんなこと君にお願いするべきではないと思う。


 でも、君じゃなきゃ駄目なんだ。巻き込んでしまって、本当にごめん。


 ……一緒に遊んだあの日から、僕ね。勝手に君たちを幼馴染だと思ってたんだ。

 今の僕は、力の半分もなくて弱いけど…………誰も死なせたくないし、殺させない為に出来る限り尽力する。だから、どうか僕に協力して……ください』

「椥……」


 頭を下げでお願いする椥を見て、僕は呟く様にその名を口にする。そして、顔を上げた椥と目が合いゆっくりと頷いて見せた。

 すると、椥は泣きそうな顔で微笑んだ。


『ありがと』

「お礼なんて、良いよ。……だって、が困ってたら助けるのは当然だもん」

『 ! 』


 僕がそう言うと、椥は驚いた様に目を見開いた。その目が、先ほどよりも更に潤んで見えたのは僕の気の所為だろうか ? 


 その後、僕は椥から助言を貰った。【首無し法師】が再び、自分を取り戻し妻子の元へ無事帰る為に僕がすべき事の助言。


『……今、僕が説明した通りにすれば。【首無し法師】の妻子を現世に呼び戻せる筈だよ。


 でも、時間はそう長くない。限られた時間が尽きる前に、急いで彼と再会させないと……【首無し法師】は妻子に会えさえすれば正気を取り戻す筈だから……。


 そしたら、すぐに僕を呼んで妹が再び何かする前に【首無し法師】を成仏させるから』

「解った」

『じゃあ、これから現世の白神神社に君を戻すね。そこに、おからもいる筈だから』

「……そう言えば。なんで、おからを神域に招かなかったの ? 」

『あー……えっとね』

「 ? 」


 言い淀む椥を見て何かよほどの理由があるのかと勘ぐってしまうが……


『実は、大型犬苦手なんだ』

「え……」


 まさかの返答に戻る間際、椥と目が合い思わず吹き出してしまった。そんな僕の反応に対し、椥が何やら言っていたが聞き取れぬままに現世へと戻される。

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