第忌譚【照る照る坊主】・弐戎伍

「じゃあ、十二年前に白神様を封印しようとしていたのって」

『そう言う事。……神は、信仰されないと力が衰える。

 まして、僕は人にすらなれなかった未熟者。だからなのか、力の枯渇こかつは思ってたより早かったんだ』

「……」

『五六家の初代当主に、僕が白神となり妹の怨念を封印する代りとして一つ約束をさせられてたんだよね。それは、白神としての力を僕が失った時。


 その時、妹の怨念が未だ残っていたら……今度は自分たちあるいは自分たちの子孫が、きちんと封印し直すって言う約束。封印って、一口に言っても方法は様々あってさ。

 僕の場合は、妹を自分の中で眠らせていたんだ。僕の見るもの感じる事を、夢として共有出来る様にね。


 そうして、経緯はどうであれ。長年、この村の守り神をして行くうち……僕はこの村や人々が少しずつ好きになっていたんだ。


 でも、妹は違ったみたい。……生前受けた仕打ちに対する恨みや、殺された事へのいきどおりはずっと消えずにの中でと共に眠っていただけだったんだ』


 つまり、椥は眠る妹に楽しい夢を見せ恨みを相殺しようと考えたと言う事か……でも、それは上手く行かず十二年前に目覚めた妹の怨念は消えてなかった訳だ。


『妹は言っていたよ。


 「自分を殺しただけでは飽き足らず、兄まで利用した村人を許せない」


 って。でも……僕は、利用されたなんて思ってない。

 それに、どんな形でも自分の目でこの世界を見る事が出来て幸せだったんだ』


 なんて、悲しい話なんだろう……妹の為に、自らが神となり恨みを浄化しようとした椥の優しさ。そんな兄の優しさを、自分を殺した村人たちに利用されたと憤る妹の気持ち。


 僕が椥でも、同じ事をしたと思うけど……逆に、妹の立場なら同じ様に感じただろうと思ってしまう。


「互いを大切に思うからこそ、二人はすれ違ってしまったんだね」

『 ! 綠くん、君は』

「 ? 」

『いや……なんでもない。それより、綠くん。

 どうか、を捕らえるのに協力してほしい』

「良いけど……君の力で、どうにか出来ないの ? 」


 僕がそう問いかけると、椥は肩をすぼめ申し訳なさそうに呟く。


『その事なんだけど…………僕は、君に……君たちに謝らないといけない事があるんだ』

「え ? 」

『さっき話した通り、僕の白神としての力はもうほとんど残ってない。っと言うか、残ってなかったんだ……実はね。


 目を覚ました妹に、残り僅かな力の半分以上を持って行かれてしまったんだよ。それで……あの【首無し法師】は、どうも妹が君たちと遊ぶ為に創った存在みたいなんだ』

「え……それって、どう言う…………」


 あまりにも予想外の言葉に、僕は理解が追い付かず困惑してしまう。


『あ、えっとね。創ったとは言っても、全部をじゃないよ。

 綠くんが見た彼の記憶は本物だし……正確には、怪異として新たに創り直したって事。


 【首無し法師】は今、自分の意志で動いてない妹の傀儡かいらいなんだよ』

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