第忌譚【照る照る坊主】・弐戎肆

『ふっ……あははは ! 何そのお願い ? 

 ふ、ははっ……』

「 ? 僕、何か変な事言った ? 」

『ふふ。いや、変じゃないよ。

 ただ、すっごく綠くんらしいと思って……ふっ』


 お面を着けているので表情は見えないのに、何故か青年が浮かべる満面の笑みが見えた気がした。思わず目を擦って確認したけど、やはりお面を着けたままだったので見間違いだったのだろう。


 そして、青年が深く深呼吸をしてから頭を下げて自己紹介をしてくれた。


『村の人は皆、僕をと呼ぶから本名を人に名乗るのは久方ぶりでなんだか不思議な感じがするよ。改めて、僕の名はなぎだ』

なぎ……良い、名前だね」

『ありがとう。両親がね。

【困難に負けず、全てをなぎ払えるような強い子に育つように】と考えてくれた名なんだ』

「愛されていたんだね」

『……』


 何故か、僕の言葉に椥は俯いて黙ってしまう。


なぎ ? 」

『……何でもないよ。気にしなしで』

「わかった」


 一瞬、椥の声が凄く暗くなった様に感じたのだか直ぐに明るい口調に戻ったので深くは追及しない事にした。そして、椥はゆっくりと話し出す。


『ありがとう。じゃあ、話を聞いてくれるお礼に……先に、君の疑問に答えるね』

「え ? 」

『僕は、君が思ってる通り正真正銘の男だよ。だけど、白神様の伝承では【生贄として殺された少女】が白神様って事になってる……』


 声に出していなかった疑問を言い当てられ少々驚いたが、目の前に居る彼は仮にも神様だ。あり得ない事ではないかと、妙に納得する。

 

『でもね。それ……半分正解で、半分不正解なんだ。


僕は【生贄として殺された少女】の……双子の兄。でも、僕は生まれてこれなかった』


 俯いたまま話す椥の声は、なんだか泣いている様で思わず顔を覗き込みそうになる。だけど、僕が覗き込む前に椥は再び顔を上げた。


『双子ってね。お腹の中で、一つになってしまう事があるんだよ。

 僕は、僕として生まれて来る事は出来なかったけど……それでも、ずっとあの子の中に居て一緒に成長していたんだ』

「そんな事って……でも、そんな君がどうして白神様に ? 」

『…………あの子……妹の怨念は、村人たちが考えてるより強大でね。かつての五六家当主たちでも、しずめる事は不可能だったんだ。


 だから、僕が白神となって妹の怨念を封じ込めていたんだよ。この事実を知るのは、歴代の五六家当主だけだ』

「って事は、現当主である都久志さんも ? 」

『知ってる筈だよ。そして、十二年前。

 僕の力がおとろえるのを待って居たかの様に、突如封印を破って妹が目を覚ましたんだ』


 十二年前と言えば、五六家と斑木家が白神様を再度封印しようとしていた時期と合致する。

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