第忌譚【照る照る坊主】・弐戎参
「……君は、誰 ? 」
『んー ? ふふ、誰だと思う ? 』
青年は、僕の問いには答えず小首を傾げ楽しそうに笑う。僕は、青年の姿をまじまじと観察した。
古めかしい着物に、飄々としていて全てを見透かし楽しんでいるような態度……まるで、
「神、様 ? 」
『ご名答。因みに、おからが消えたのは僕の神域に入ったからだよ。
ここでは、生者以外の存在は僕が許可しないと姿を保てないんだ。久哉くんの命に、別状はないから安心して』
「そう、なんですね」
目の前にいる相手が神と知り、思わず敬語になってしまった僕に対し背を向けた青年が少し寂し気に言った。
『……敬語なんてやめてよ。他人行儀は嫌いなんだ』
「え ? あ、ごめん ? 」
思わず謝罪する僕に、青年は自嘲しながら振り返る。
『いや。僕の方こそごめん。
君は何も憶えてなんだから、他人行儀で当たり前なのに……』
「憶えて……ない ? 」
『……十二年前。僕らは、この場所で一緒に遊んだ事があるんだよ』
青年の言葉に、十二年前の記憶が薄っすらとだが思い起こされる感覚があった。顔や名前は憶えていないが、いつも一緒だった六人の他に確かに誰かとこの場所で遊んだ様な気がする。
僕は目を閉じで、必死に思い出そうとするがその部分の記憶だけ霧がかかった様に思い出せない。
『無理に思い出さなくて良いよ』
「どうして ? 」
『……最後の思い出作りのつもりだったんだ』
「最後……」
『僕は、白神様なんだよ』
彼が、白神様 ?
だけど、祖父の話しだと白神様は少女だった筈。でも、目の前にいる青年は顔こそ解らないけど体格や声の感じが間違いなく男だ。
それも、おそらくは僕と同い年くらいの青年。
「……」
『だから、生きてる時には叶えられなかった。友達と遊ぶって事をしてみたかったんだ』
そう悲し気な声で呟いてから、青年はこう切り出した。
『……今から僕が話すのは、嘘偽りない事実だ。信じるかどうかは君の判断に任せる。
ただ、信じてくれるのなら協力してほしい事がある。もちろんただでとは言わない。
代わりに僕は君に力を貸そう。どうかな ?
僕の話を聞いてくれるかい ? 』
「わかった。ただ、一つお願いして良い ? 」
『何 ? 』
「君の名前を先に教えよ。僕だけが名前を知られてるのは……フェアじゃないから」
『へ ? 』
僕の言葉に青年は、素っ頓狂な声を上げる。おそらく予想していた事と違ったからだろう。
でも、話しが終わればこの神は自分を元の場所へきちんと帰してくれる。何故かそう信じる事が出来たから僕は敢えてそう言うお願いはしない事にした。
まさかの頼みに困惑した様子の青年だったけど、一瞬の間をおいて次の瞬間には思い切り吹き出した。
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