第忌譚【照る照る坊主】・弐
今から十二年前。僕がまだ、五歳の頃に父は亡くなった。
享年三十歳……当時まだ幼かった僕は、父の死んだ原因をちゃんとは知らない。一応事故だったと聞かされてはいたが、詳しい内容について母も祖父母も教えてくれなかった。
そして、今回は十三回忌と言う事で父の実家に帰って来たのだ。
「まぁ、取り合えず。今日の所は、二人ともゆっくりしてくれ。
法事は明日の正午からだし斎場で行うから今は準備する事もないしな」
「ありがとうございます」
荷物の整理をし終え、祖母の用意してくれた夕飯をごちそうになる。食べながら、互いの近況や僕の通う高校の話で盛り上がり穏やかな時間が流れた。
食事が終わると、母と祖母は二人で後片付けを始める。僕も食器を台所に運ぶのを手伝った。
だが、皿洗いしながら母と祖母が父の思い出話をしていたので邪魔をしてはいけない様な気がして僕は台所を出て祖父の居る茶の間に戻った。
そこでふっと思い立ち、僕は祖父にこう切り出した。
「じいちゃん」
「ん ? どうした ? 」
「……父さんって、なんで亡くなったの ? 」
一瞬時が止まった様に、僕と祖父の間には静寂が流れる。やはり聞くべきではなかったのかと、僕が生唾を飲み込むとほぼ同時に祖父が口を開く。
「……そうだな。お前も、もう十七になる。
話しても、良いかもしれない…………いや寧ろ、いい加減話しておかんとお前も危ないかもしれん」
「どう言う、事 ? 」
そして、祖父の口から語られた話は思っていた以上に現実味がない話だった。でも、嘘を付くならもっと現実的な話をする筈。
そう思ったからこそ、僕は祖父の話を信じたんだ。
ここ鵺霧村には、古くから祀られている【白神様】と言う神様がいる。僕も名前くらいは聞いた事があった。
元々は、村で迫害されていた少女が死後。何らかの理由により神として祀られる様になったのだ。
そう言う風に、父や祖父母に教えられていた。
「その何らかの理由と言うのがな、少女の呪いだったんだ」
「呪い ? 迫害されていた少女が死後、村を呪ったって事 ? 」
「……少し違う。少女は、きっと生きてる時からこの村を呪っていた。
見た目が、普通と少し違ったんだ。綠、お前さんと年の近いありさと
「覚えてるよ。アルビノの二人でしょう ? 」
祖父の口から出た名前を聞けば、幼い頃村に来るたび一緒に遊んでいた子たちの中に居た二人の少女の姿を思い出す。
「そうだ。……その少女もな。
あの子らと同じ、アルビノだったんだ。今でこそ、医学的な原因なども解っているが当時は子供の髪が白いだけでも悪目立ちした事だろう。
おまけに、赤い瞳だ。
可哀相にな。少女は、当時の村人に忌み子として嫌煙され。
鬼の子と、呼ばれていたそうだ」
「……酷いね」
「本当に酷い話だ。そして、少女は最後。
村人に殺されたと伝えられている。……なんでも、当時の斑木家当主だった者が疫病の原因は鬼の子だと言ったらしくてな」
「そんな……」
「相当、惨い殺され方をしたと聞いている。
それから、暫くして少女を殺した者たちが次々と行方知れずになった。そして、最後には当時の斑木家当主が無残な姿で発見されたんだ」
「それが、少女の呪い……」
「ああ……だがな。五六の祖先が社を建て、少女を神として祀ったんだ。
それからは、村で奇妙な事は起きなくなってな。だが……少女が殺された原因になった斑木家は、今も【白神様】に呪われている。
そこで、老朽化も進んでいた【白神様】の社を取り壊しどうにか封印してしまおうと言う話しが十二年前に出たんだ」
全てが初めて聞かされる話だった。生きている時は、鬼の子と呼ばれ蔑まれ。
死んでからは【白神様】として祀られた少女。僕は、少しだけ少女に自分自身を重ねてしまう。
現在通っている高校で、僕は虐めを受けている。理由は、幼い頃から人には視えない存在が視えるから。
それを、当たり前だと思って幼少期は過ごしていたが学校に通い始めると僕以外に視える子は一人も居なかった。そして、気味が悪いと虐められるようになったのだ。
……だから、理由は違うけど僕は少女の気持ちが少しだけど理解出来る気がした。
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