第忌譚【照る照る坊主】・参

「しかしな。その為には、色々と準備が必要で……お前も知っての通り、斑木は五六の本家になる。


 社を取り壊すとなると、建てた五六家の者はもちろん。同じ血族で、結果的にを死に追いやり【白神様】が誕生する原因になった斑木家の者も共に儀式を行う必要があった」

「その儀式って ? 」

「わしも詳しくは知らんのだが、まず祭壇を用意しそこにお供え物と霊鏡を置き浄衣じょうえを着た五六家の者が経を唱える。

 そして、巫女装束に身を包んだ斑木家の舞姫まいひめが奉納演武を舞う。そうする事で【白神様】に自ら霊鏡の中に入って頂き、それを五六の者が再度封印する手筈だったらしい。

 だが、斑木の舞姫だった月美希つきみさんは【白神様】に呪われていた。呪われている者はな。

【白神様】と同じ容姿に生まれ、とても病弱だ。そして、社に近付くと恐ろしい事が起こる……最悪死ぬ事もあると聞いた」

「斑木家の全員が呪われているの ? 」

「いや。女性だけだ」

「それって【白神様】が生前、少女だったから ? 」

「恐らくな。

 ……それで、月美希さんの身に何かあっては危ないのでな。儀式の当日、睦十が同席する事になっていた」

「え ? 」


 全く無関係だと思っていた父の名が出てきた事に、僕は驚きを隠せなかった。


「綠。お前には、以前うちが代々続くの家系だと言うのを話したと思う」

「うん。高校に入学する少し前に教えてくれたよね」

「念の為、改めて教えるが……憑き護と言うのは、生きた守護霊の様な存在。普通に生きていて、霊的な存在から人を護るだ。


 要するに、不幸を被る避雷針だな」

「……それって、…………もしかして……、

 父さんは月美希さんの身代わりになったの ? 」

「……」


 僕の問いに、祖父は答えずに俯いてしまう。自分の父が、誰かの身代わりに死んだのかもしれない……そんな、想像もしていなかった話を聞かされ正直僕も何といって良いかわからなかった。


 しかし、ある事を思い出しその矛盾を僕は祖父に直接尋ねる。


「 ? ……ねぇ、じいちゃん。

 僕の記憶通りなら月美希さんも十二年前に亡くなってるよね ? なんで ? 

 父さんが身代わりになった筈なのに、月美希さんが死ん……」

「違うんだ」

「え ? 」


 祖父は、僕の言葉を遮ると話を続けた。


「睦十は、誰かの代わりで死んだんじゃない。……それに、身代わりと言っても死ぬ筈がなかったんだ。

 うちの家系には、幼い頃に寺や神社に預けられ修行を行う習わしがある。お前さんも、覚えがあるだろう ? 

 あれは、法力を授かる事で自らも護れる様になる為なんだ。睦十は、五六家の寺に預けたが直ぐに修行を終えて帰って来た。

 そして、当時の住職が


『息子さんは、私などよりもずっと高い霊格を持っている。神に愛されてるのかもしれない』


 そう言って、成人したらうちに正式入門しないかと何度もしつこく言って来る程に強い霊力をもっていたんだ。悪運も強くて、他人の不幸を自分に移してもそれを浄化させるだけの力を睦十は持っていた。


 だから、死んだ原因は他にある」

「そう、なんだ。なら……父さんは、どうして亡くなったの ? 」


 僕は、祖父の顔を真っ直ぐ見詰め次の言葉を待つ。祖父は一度大きく息を吸うと、意を決したように口を開こうとした。

 だが、その時だ。廊下の奥から、こちらへと向かって来る母と祖母の声が聞こえてきた。


 祖父は、二人にこの話を聴かせたくないらしく開きかけた口を閉じてしまう。

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